最新記事

エジプト

「タフガイ大統領」がISIS空爆で抱えたリスク

2015年2月27日(金)12時51分
ウィリアム・ドブソン(本誌コラムニスト)

独裁者ほど実はもろい

 中東の要に位置するエジプトに対する挑発は、ISIS最大の悲願だった。彼らはこれまでアラブ世界の「腐敗した政権」を標的にしてきた。シリア、イラク、ヨルダン、リビア、そして今度はエジプトというわけだ。

 ISISは宗派対立を戦いの道具に使う。エジプトが国内に無数の怒れるイスラム教徒を抱え、その多くがISISに同情的なことはもちろん承知の上だ。実際、シシが徹底的な弾圧でムスリム同胞団を非合法化した今、ISISへの共感はさらに強まる可能性が高い。

 自国民のキリスト教徒を殺害したという理由でイスラム教スンニ派主体の軍が隣国のスンニ派を空爆する──この状況をエジプトのイスラム教徒はいつまで容認できるのか。もしリビアでの戦闘が拡大したら、あるいはISISがエジプト国内の大都市でテロを起こしたら、シシの支持者でさえどんな反応を見せるか予断を許さない。

 ISISに殺害された21人のコプト教徒は仕事を求めてリビアに出稼ぎに来ていた。同じようなエジプト人は数十万人いる。ISISによるこれ以上の拉致・殺害を止めるにはどうすればいいのか。シシは空爆以外に打つ手があるのか。

 おぞましい惨劇が今後も繰り返されるようなら、シシの無力さを浮き彫りにする結果になり、政権の正統性の根拠は大きく揺らぐ。シシは、自分なら国家と治安を守れると言った。軍人出身の「タフガイ大統領」にも無理だと分かったら、次に何が起きるのか。

 ISISによるテロの脅威には、多くの国々が団結して立ち向かう必要がある。彼らは世界中から戦闘員の希望者を集め、弱体化した不安定な国で騒動を起こそうとする。各国政府が独力で対応できる相手ではない。

 だが、この戦いで最大のリスクを負うのは、強権支配による安定と治安を約束した軍事政権かもしれない。自分の弱さを自覚していないタフガイの独裁者ほど、もろいものはない。

[2015年3月 3日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4

ビジネス

ECB、12月にも利下げ余地 段階的な緩和必要=キ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中