最新記事

中東

エジプト「クーデター隠し」政権の混沌

暫定憲法が発表され、組閣協議が続いているが、政治的混迷は深まる一方

2013年7月11日(木)15時46分
サマンサ・スタインバーン

知名度抜群 反モルシ勢力を率いたエルバラダイに次期大統領との呼び声も Mohamed Abd El Ghany-Reuters

 大規模デモによる政治混乱が軍部のクーデターに発展し、モルシ大統領が政権の座から引きずり降ろされたエジプト。最高憲法裁判所長官から暫定大統領に就任したアドリ・マンスールは、国際社会からのクーデター批判をかわすため、主要人事を固め、暫定憲法の発表や組閣などの体制づくりを急いでいる。

 外交担当の副大統領に起用されたのは、国際原子力機関(IAEA)の前事務局長で、反政府勢力を率いたモハメド・エルバラダイ。暫定首相には、元財務相のハゼム・ベブラウィが任命された。

 ベブラウィ暫定首相は早速、政権発足に向けた組閣に着手。組閣協議は「数日」続く見込みだと語る。「さまざまな入閣候補者との話し合いが続いている。来週早々にも最終的な布陣を固める予定だ」

 危機を早期に収拾したい新政権にとって「挙国一致」内閣を作ることは最優先課題の一つ。首相のメディアアドバイザーを務めるアハメド・メスレマニによれば、ベブラウィはモルシの支持母体である「ムスリム同胞団」の傘下政党にも内閣のポストを与える意向だという。

 だが政治的対立の解消は容易ではなさそうだ。首都カイロでは7月8日、モルシ解任に抗議するデモ隊と軍が衝突し、50人以上が死亡した。犠牲者の大半はデモの参加者だったが、検察当局は10日、衝突を扇動した容疑でムスリム同胞団の最高指導者らに逮捕状を出した。

 国際社会もエジプトの動向を注視している。ある米政府高官によれば、米政府は過去に定めた援助計画に沿って、F16戦闘機4機をエジプト軍に供与する方針だという。だが民主的に選ばれたモルシ前大統領の権限をはく奪したエジプト軍の行為を米政府が「クーデター」と認定すれば、援助は凍結しなければならなくなる。ホワイトハウスはこの件について、コメントを拒んでいる。

 マンスール暫定大統領は8日、来年早々に議会選挙を実施する計画などを含む「憲法宣言(暫定憲法)」を発表したが、前途は多難だ。モルシ派のムスリム同胞団が反発するのは当然だが、エルバラダイが共同代表を務める世俗派の「救国戦線」やリベラル派の若者組織「タマルド(反乱)」など、「反モルシ」で結束してきた勢力からも批判が噴出。暫定政権が発足しても、混迷は続きそうだ。

From GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 7

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 8

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中