最新記事

中東和平

アラブ・アイドル誕生にパレスチナ熱狂

ガザの難民キャンプ出身のイケメン、アサフの歌声がパレスチナに歓喜と誇りをもたらした

2013年6月27日(木)17時30分
アーメド・アルダバ

英雄誕生 ヨルダン川西岸の街ナブルスでも、住民がアサフの優勝を祝福 Abed Omar Qusini-Reuters

『アラブ・アイドル』の優勝者、モハメド・アサフ(23)がパレスチナ自治政府ガザとエジプトを結ぶ検問所に姿を現すと、彼を待わびていた何千人ものファンが歓声を上げた。
 
 アメリカの人気オーディション番組『アメリカン・アイドル』の中東版『アラブ・アイドル』の決勝が22日、レバノンの首都ベイルートで行われた。ガザの難民キャンプ出身のアサフは、その甘いルックスとパレスチナ人の愛国心に訴える曲で、世界中から集まった候補者たちを圧倒した。

 熱狂的なファンたちはガザ南部、エジプトとの国境沿いにあるラファの検問所に群衆となって押し寄せ、アサフの凱旋を待った。カーンユーニス難民キャンプにある彼の家の前にも数千人が集まり、スターの誕生を音楽や踊り、花火で祝った。

「アサフが帰ってくるまで、ここを離れない」と、アサフ家の近所に住むムサラムは語った。「彼の隣人であることを、とても誇りに思う」

「ハマスとファタハは和解を」

 イスラエルに封鎖され、イスラム原理主義組織ハマスの実効支配下にあるガザの住民にとって、アサフの優勝は久しぶりに飛び込んできたうれしいニュース。パレスチナ人としての誇りも蘇った。アサフはパレスチナの曲を歌うことで、ガザの人々の気持ちを奮い立たせた。ガザのアクセントで歌いあげた曲もあり、その歌声はアラブ世界の何百万人もの視聴者に届けられた。

 パレスチナ自治区だけでなく、イスラエルのアラブ人居住区でも、人々は通りに飛び出して、アサフの優勝を祝った。彼の歌は、政治的そして地理的に分断されたパレスチナ人を再び1つにしてくれたと、ガザの人たちは言う。

 特に彼が決勝戦の最後に歌った曲「ケフィエを掲げよう」は、パレスチナ人の心に強く響いた。ケフィエはパレスチナ解放機構(PLO)の故ヤセル・アラファト元議長がかぶっていたことで知られるチェック柄のヘッドスカーフだ。

「ラマラとナブルスにケフィエを掲げよう」と、アサフは歌った(ラマラとナブルスはパレスチナ自治区ヨルダン川西岸にある街)。「あなたの誇りであるヘッドバンドは気概と決意の象徴だ」

 パレスチナ人は1967年以来、西岸とガザに分かれてイスラエルの占領下で暮らしている(ガザでは2005年にイスラエル軍が撤退し、入植地も解体された)。

「アサフは結束のシンボルだ。彼の歌は私たちを1つにし、パレスチナの名を高めてくれた」と、パレスチナ人の富豪ムニブ・アルマスリはラファの検問所でアサフを待ちながら語った。アルマスリはこの後、高級ホテルでアサフに夕食をもてなしたという。

 アサフは検問所で、ハマスとパレスチナ自治政府の主流派ファタハに和解を呼び掛けた。07年にハマスがガザを武力制圧して以来、西岸を統治するファタハとの対立が深まり、分離されたガザ地区の貧困は深刻化している。
 
From GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中