最新記事

ミャンマー

反体制派が疑うスー・チーの中立性

少数民族の反政府武装勢力がアウン・サン・スー・チーからの紛争仲介の申し出を断った理由

2013年4月15日(月)16時34分
パトリック・ウィン

揺らぐ信頼 スー・チーは少数民族の紛争解決に消極的だと批判する声も Soe Zeya Tun-Reuters

 かつては自身も反体制派だったミャンマー(ビルマ)のアウン・サン・スー・チー連邦議員。北部カチン州で1年半以上前から続いている政府軍と少数民族の反政府武装勢力の紛争の仲介を申し出たが、武装勢力側はその申し出を拒否している。

 スー・チーとミャンマーの政治情勢について詳しく知らない者にとっては、なんとも不可解に思える事態だろう。彼女は国内の反体制派を代弁する存在ではなかったのか? 抑圧されている人々にとって、彼女は恒久的な平和を可能にする一番の希望ではなかったのか?

 問題の紛争は、自治拡大を求めるゲリラ組織のカチン独立軍(KIA)が、政府軍を相手に繰り広げている。スー・チーに対しては、和平協議に「不干渉」の立場を取っていると批判の声が上がっていた。

 こうした批判を受けて、スー・チーは最近、和平仲介の用意があると発言した。「私が和平協議に参加していないことに対して、一部から批判の声が上がっている。だが前から言ってきたように、当事者たちが望むならば私は喜んで和平プロセスに参加する」

アメリカの歓心を買うために利用?

 なぜ人権擁護の象徴であるスー・チーが、紛争解決に消極的だったのか。それを理解するには背景を知る必要がある。

 外国メディアや欧米の外交官の間ではカチンの反体制派に同情的な見方が多いが、ミャンマーの政界やメディアの間では彼らはテロリスト扱いされがちだ。同情すべき点はあるにせよ、「テロリストとの停戦」に手を貸したと見なされてはスー・チーとしても困るだろう。

 一方、KIA幹部の多くは、自分たちが抵抗を誓った権力層にスー・チーが「接近し過ぎ」だとして、彼女の中立性に疑念を抱いている。

 KIAのジェームズ・ラム・ダウ大佐は、スー・チーは「テイン・セイン大統領がアメリカの歓心を買うために利用しているコマにすぎない」と言う。「テイン・セインの目標はミャンマーの地位向上にある。そのためにスー・チーを世界の舞台に押し上げ、彼女の注目度を高めている。おかげでアメリカとの関係が大幅に改善された」

 スー・チーはアメリカにとって頼りになる「対話の仲介者」かもしれない。だが少なくとも今のところ、カチンの武装勢力は彼女の力を必要としていないようだ。

From GlobalPost.com特約

[2013年2月26日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 6
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 9
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中