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パイプライン時代の逆風に揺らぐロシアの天然ガス支配
新パイプライン「サウスストリーム」は欧州市場を逃したくない一心の壮大な無駄
立場が逆転 もうガスプロムのコワモテは通らない?(ロシアのパイプライン) Yuri Maltsev-Reuters
欧州のライバル諸国との長年にわたるぎりぎりの契約交渉が実って、ロシアの国営ガス会社ガスプロムは先週、遂に大規模なパイプライン「サウスストリーム」の建設に着工した。欧州のエネルギー市場に対する支配強化の野望へ向け、大きな一歩を踏み出したといえる。
国際エネルギー市場の新たな動きは、供給源の多様化と価格下落。そんななか、南欧および中欧諸国にロシアから直接天然ガスを供給するための高価なパイプラインはロシアの追い風になるかお荷物になるか──専門家は様子見の構えだ。
「これは中期的プロジェクトだ」と、オックスフォード・エネルギー研究所のジョナサン・スターンは言う。
サウスストリームはロシア南西部から黒海海底を通り、ギリシャなどを経由してオーストリアやイタリアに至る200億ドルのプロジェクト。ロシアと何度もガス紛争を起こしているウクライナは迂回する。
イタリアのENIなど独仏伊の資源エネルギー3社が半分を出資、2015年後半までに年630億立方メートルを輸送できるようにする予定だ。
既に天然ガスの4分の1をロシアからの輸入に頼っているヨーロッパ人は、ざわざわと不安が広がるのを感じている。
心配性なヨーロッパ人
サウスストリームを壮大な無駄とあざ笑う批判派もいる。ロシア政府は欧州諸国がロシアの天然ガスに依存し続けるよう、セルビア、ブルガリアなどパイプラインが通過する国すべてと個別に交渉をした。
その狙いは、EUも出資して進めているナブコパイプライン計画をつぶすことだともいわれる。トルコなどの中央アジアから、ロシアを迂回して天然ガスを欧州に輸入するパイプラインだからだ。
ロシアの焦りもみえる。欧州の大国は、天然ガスを液化してパイプラインがなくても船で運べるようにした液化天然ガス(LNG)を世界中から輸入し始めている。天然ガスより高価とはいえ、供給源が増えたことでロシア産の天然ガスにも既に値下げ圧力がかかっている。
モスクワの証券会社URALSIBキャピタルのアナリスト、アレクセイ・コキンは、LNGのシェアが急速に拡大するのを見てガスプロムは、小国だけでもつなぎ留めようと思ったのだろうと推察する。「パイプラインの狙いの1つは、欧州の小国がLNGの受け入れ基地を造るのを阻止することだ」
アメリカで新しいタイプの天然ガスを大増産している「シェールガス革命」も、いずれは欧州におけるロシアの天然ガス支配にとっての脅威になるだろう。
だがスターンによれば、シェールガス革命はヨーロッパ人の目にはまだ遠い。いつか北米のシェールガスLNGが欧州市場に到達する日も来るかもしれないが、それが現実になる2015年頃にはサウスストリームも操業を始めている。
ヨーロッパ人はもっと自信を持つべきだというのは、フィンランド国際問題研究所のアルカジイ・モシェスだ。そもそも欧州はガスプロムの支配下にあるわけではない。取引は相手があって初めて成り立つもの。欧州が天然ガスを買ってくれなければ困るのはロシアも同じだ。
「長いこと、欧州は誤った認識を抱いていた。欧州は一方的にロシアの天然ガスに依存しているわけではない」とモシェスは言う。「常に天然ガス収入を必要としていたのはロシアのほうだ。時はヨーロッパの味方だ」
欧州の不安は本当に杞憂なのか、その答えを知るにはもう少し時間がかかりそうだ。
From GlobalPost.com特約
[2012年12月19日号掲載]