名門バルサにカタルーニャ独立運動の影
演説から35年を経て、バルサの政治的立場はカタルーニャの地位をめぐる最近の論争の中で、過激な方向に向かうように見えた。しかし今のバルサはグローバルな「ブランド」であり、政治や文化、社会の偏狭な利害関係とは無縁だ。ファンだけでなく、選手やスポンサーもだ。
クラブの主な収入源はカタルーニャにはない。カタール財団、ナイキ、そしてレアル・マドリードと分け合っているテレビ放映権料だ。
バルサの育成組織「マシア」は、世界中の有望な若い才能を集めており、ナショナリズムとは関係ない。そこで教えられているのは寛容とチームワークで、政治や分離主義についてではない。マドリードとアンダルシア地方にもバルサの活発なファンクラブがあるが、そこに属するメンバーはカタルーニャの分離独立を望んでいない。
上層部は独立より「拡大」
バルサが世界中に数え切れないほどのファンを獲得している理由は、その政治的立場よりもプレースタイルとクラブの実力だろう。
ピケ、シャビ、プジョルといったカタルーニャ出身の主力選手は、地元への愛を口にする。その一方で彼らは、ビセンテ・デル・ボスケ監督率いるスペイン代表の一員としてもプレーしている。メッシ、イニエスタ、ペドロ、ビジャといったカタルーニャ出身者ではない主力選手も、特に「スペイン」にとどまることに異論はなさそうだ。メッシはアルゼンチン人だし、他の選手はカタルーニャ人ではないスペイン人だ。
カタルーニャが分離独立したら、バルサはどうなるのか。可能性としてあり得るのは、スペイン内戦時のようにカタルーニャ・リーグに籍を移すことだ。そうなればカタルーニャ出身の選手はスペイン代表を脱退し、カタルーニャ代表を結成することになる。これがクラブや選手、そしてファンにとっていいかどうかは分からない。
今のところ、バルサ上層部の野望は独立問題とは別の方向に向いている。その野望は、昨年11月にカタールのドーハで開かれた会議でのロセイの発言から分かる。国内リーグを縮小し、テレビ視聴者を増やせるチャンピオンズリーグを拡大するという各国主要クラブの要求に欧州サッカー連盟(UEFA)が応じないなら、14年には新しいヨーロッパリーグが立ち上がる可能性をロセイは示した。
しかしスペイン代表監督のデル・ボスケは、スペインリーグを解体することに反対している。主要クラブだけの「スーパーリーグ」の設立には、特にクラブへの忠誠心が強いといわれるイングランドのファンが反発するとも予想する。
代案としてデル・ボスケは、スペインリーグでテレビ放映権料をもっと広く公平に分配すべきだと主張している。だが一方で、それが難しいことも分かっている。
「バルサとレアル・マドリードの2クラブがすべてを独占しているのは、サッカーの将来にとって良くない」と、デル・ボスケは筆者に語った。「しかしどちらも非常に力があるから、現状を変えるのは難しい」
カタルーニャに独立の機運が高まるなか、将来の「カタルーニャ大統領」就任を期待されているのが、バルサの前監督ジョゼップ・グアルディオラだ。バルサを本当の意味で世界最高のクラブに育てたといわれる彼だが、政治には関わらず、しばらくはこのままニューヨークで休養することを明らかにした。これには失望したカタルーニャ人も多いだろう。