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ロシア抱腹絶倒!プーチン皮肉るアングラ劇団
ボトックス疑惑から愛人の噂まで、さまざまなタブーを盛り込んでロシア政治の闇に切り込む
まんざらでもない? アングラ劇団「テアトル・ドット・ドク」の舞台でさんざん笑いの種にされたプーチンだが Mohamad Torokman-Reuters
テアトル・ドット・ドクは最近、ロシアの反政府運動に重要な役割を果たしているアングラ系の劇団。ただし、彼らの芝居を見るのは至難の業だ。
活動拠点は、大統領府から1キロ余りしか離れていない場所の地下に設けられた簡易ステージ。客が100人も入れば満員で、半数以上は床に座らされる。
秘密主義も徹底している。宣伝ポスターはなく、公演情報はネットでしか見られない。それでも、現代ロシアのざらついた日常を描いた作品を目当てに、多くの観客が押し寄せる。
この10年間、劇団創設者のエレーナ・グレミナとミハイル・ウガロフは社会問題に鋭く切り込む一方、政治問題への言及を避けてきた。北オセチア共和国ベスランで起きたチェチェン人による学校占拠事件へのロシア人の無関心、愛が報われず夫を殺した女性受刑者、疎外感に苦しむ若いエイズ患者。どの作品にもロシアの現実が映し出されているが、制作陣の政治的見解が示されることはなかった。
プーチンが記憶喪失に?
だが5月になって、劇団はついに中立路線を捨てた。ある肌寒い月曜日の夜、劇団は地下室を飛び出し、デモ隊が集まるモスクワの公園で『ベルルスプーチン』の一部を上演した。これはイタリアの劇作家ダリオ・フォの『双頭の人体』をリメークした舞台。主人公は4年ぶりにロシア大統領に返り咲いたウラジーミル・プーチンと、女好きで知られるイタリアのシルビオ・ベルルスコーニ前首相だ。
冒頭で2人はテロ攻撃に遭い、ベルルスコーニは死亡、プーチンは生き残る。イタリア人医師団がベルルスコーニの脳をプーチンに移植すると、プーチンは自分が犯してきた政治的な罪を忘れてしまう。
バーバラ・ファエルが脚色した今回の舞台には、プーチン政権にまつわるスキャンダラスな噂が盛り込まれている。例えば、29年前に結婚したプーチンの妻リュドミラが表舞台から姿を消した件。彼女はプスコフの北にある修道院で暮らしているとみられる。一方、プーチンの愛人と噂される新体操の元世界王者アリーナ・カバエワは国会議員となり、事実上のファーストレディーと言われている。
ほかにも、プーチンが若返りのためにボトックス注射を受けているという噂や、写真撮影の際に上半身裸になりたがる癖、汚職に寛容な姿勢など、さまざまなタブーを笑い飛ばしている。
大半の劇場で上演拒否
こうした笑いの合間に政治的な批判も盛り込まれる。医師団はプーチンの記憶を取り戻すため、修道院にいる妻の元に生まれ変わったプーチンを連れていく。妻の話を聞いて自らの極悪非道な過去を恥じたプーチンは、話をやめてセックスしようと妻に懇願。「私をレイプすることなんてできない。私はロシアじゃないんだから」と、妻は叫ぶ。
こんな調子だから、フォの『双頭の人体』はロシアの大半の劇場で「問題作」扱いされて上演を断られてきた。だがテアトル・ドット・ドク版の公演情報は当局に知られておらず、公園での舞台は弾圧を免れた。
創設者の2人は、今後も政治的に刺激的な作品を上演する決意を固めている。昨冬には、人権派弁護士スタニスラフ・マルケロフの暗殺を企てた愛国主義者らの会話を俳優陣が読み上げる朗読劇を上演。この会話は治安当局が09年に録音し、新聞社から劇団に持ち込まれたものだ。
グレミナが手掛けた新作『1時間18分』は、弁護士セルゲイ・マグニツキーの生と死を時系列で追う。役人の巨額不正を追及していたマグニツキーは、獄中で医療を受けられず死亡した。彼の死に関与した人間が有罪判決を受ける日まで上演を続ける、とグレミナは誓っている。
公園で『ベルルスプーチン』が上演された翌日、警察はデモ隊を一斉に検挙した。彼らは今も身柄を拘束されたままだ。