アルカイダ「検知不能」爆弾の脅威
しかし、油断はできない。旅客機爆破未遂事件を機に、アメリカの多くの空港では搭乗前の身体検査用に全身透視スキャナーが導入されたが、外科手術で体に埋め込む爆発物の改良が進めば、検知は不可能になるだろう。
こうした不安があるからこそ、オバマ政権は空港での水際作戦だけで満足せず、テロ組織掃討作戦に力を入れている。アフガニスタンとパキスタン、イエメンで無人爆撃機による攻撃を行っている目的はここにある。
アラビア半島における地上の戦いでは、ナエフ王子率いるサウジアラビアのテロ対策部門がカギを握る。電子機器を用いた監視技術ではアメリカが世界一だが、この地域における人的監視能力では、サウジ当局がアメリカのはるかに上を行く。
実力は今回の二重スパイ作戦でも発揮された。「サウジ当局はイエメン国内に強力な情報収集網を持っていて、AQAPが欧米のパスポート保持者を探しているという情報を得た」と、湾岸研究センター(リヤド)の安全保障・防衛部門責任者を務めるムスタファ・アラニは言う。
サウジ当局は、二重スパイを送り込む絶好のチャンスと考えた。そこで見つけたのが、EUのパスポートを持つ元イギリス居住者の男性だった。これにはイギリス政府が協力したようだ。
テロ勢力はいまだ拡大中
「サウジ当局はその男性をスカウトして、イエメンに送り込んだ。すると期待どおり(AQAPが)食い付いた」と、アラニは言う。「アメリカ側も知らされていたが、これは全面的にサウジアラビア当局の作戦だった」
成果は、最新型爆弾の入手だけではなかったようだ。5月6日にアメリカ軍がイエメンで無人爆撃機攻撃によりAQAP幹部のファハド・アル・クソを抹殺する上でも、この二重スパイのもたらした情報が役立った可能性がある。
こうした成果も上がってはいるものの、テロの活動領域は縮小していない。むしろ、拡大し続けている。「ウサマ・ビンラディン抹殺から1年たって、問題が万事解決したかのようなムードも漂い始めているが、それはとんだ思い違いだ」と、ある米情報機関のベテラン職員は言う。「アルカイダ系の組織が安全に活動できる地域は広がっている」
イエメンでAQAPの支配地域は過去最大に拡大しているし、ソマリア、マリ、ナイジェリア北部、アルジェリアとリビアの一部などでもアルカイダ系の組織が頭をもたげ始めている。爆弾専門家のアシリは今も健在で、ほかのエキスパートを育成している。
「安心ムードに水を差すのは本意でないが」と、この情報機関職員は言う。「心配することが私の仕事である以上、状況を丹念に精査しないわけにいかない。そして精査すると、大きな不安を感じずにはいられなくなる」
[2012年5月23日号掲載]