最新記事

債務危機

抗議の自殺が物語るギリシャ庶民の現実

厳しい財政緊縮策が続くなか、アテネの路上で政府に抗議する自殺事件が発生。これを機に、市民の不満に再び火がついた

2012年4月6日(金)16時23分
アダム・テイラー(ビジネス・インサイダー)

声を上げろ 自殺事件を機に、アテネのシンタグマ広場では市民と警官隊が衝突(4月5日) Yorgos Karahalis-Reuters

 厳しい財政緊縮策が続くギリシャで4日朝、通勤ラッシュの時間帯に悲劇は起きた。首都アテネの中心部にある国会議事堂前のシンタグマ広場で、70代の元薬剤師の男性が銃で頭部を撃ち抜き、命を絶ったのだ。

「威厳ある形で人生を終えるには、こうするしかない。ごみ箱をあさるようにはなりたくない」と、男性の遺書には書かれていた。「未来のないこの国の若者たちはいつか武器を手に取り、国家の裏切り者をシンタグマ広場で吊るし上げにするだろう。1945年にイタリア人がムッソリーニを吊るしたように」

 今回の事件をきっかけに、シンタグマ広場では激しい抗議活動が勃発した。BBCの報道によれば、事件のわずか数時間後、数百人の市民が広場に集結して抗議デモを展開。デモ隊は火炎瓶を治安部隊に投げつけ、治安部隊が催涙ガスで応酬する事態となった。

 アテネ・ニュースによれば、抗議活動はSNSなどを通じて組織された。参加者は「死に慣れてはだめだ」と書かれたスローガンを掲げて行進した。

上昇を続ける自殺率

 自殺の現場には、死を悼む花やメモが数多く置かれている。なかには「もう我慢ならない」と書かれたメモもあった。

 厳しい経済状況が続くギリシャでは、自殺が深刻な社会問題になっている。複数の報道によると、金融危機が世界を襲った07〜09年の間、ギリシャの自殺率は17%も上昇したという。

 自殺した男性がかつて所属していたアッティカ薬剤師協会のコスタス・ルーラントス代表は、次のようなコメントを発表した。

「彼があのような死に方を選んだのは、政治的姿勢を訴えるためだ。もし自宅で自殺していたら、これほどの騒ぎにはならなかった。しかし実際は、自宅で命を絶つ人も大勢いる。今回の事件は、明るい日光と笑い声が自慢のわが国で起きている数多くの自殺の一つであることを認識する必要がある」

GlobalPost.com特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

シャオミのEVが死亡事故、運転支援モードで柱に衝突

ワールド

中国軍、台湾周辺で軍事演習開始 頼総統を「寄生虫」

ビジネス

日経平均は小反発、買い一巡後は上値重い 米関税への

ビジネス

調査統計局長に川本国際局審議役が昇格、理事就任の中
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中