それでもプーチンは生き残る
ロシアの反体制運動で目下の最重要人物は、役人たちの大掛かりな汚職の証拠をインターネット上で暴露し続けてきた弁護士のアレクセイ・ナバルニーだ。汚職問題こそ、大半のロシア国民にとって最大の政治的な関心事だからだ。
ロシア国民の多くが最も関心を持っている政治的なテーマは、報道の自由の抑制でもなければ、莫大な予算をつぎ込んだ軍備強化への懸念でもなく、移民に対する厳しい取り締まりでもない。政権を裏切った人間の毒殺や、反体制派や野党系富豪の投獄でもない。
むしろ、一般市民はプーチン体制のこれらの行動を歓迎しているようだ。最近の調査によると、ロシア国民の間で、「秩序」を「民主主義」より優先すべきだと答えた人は、民主主義を秩序より優先すべきだと考える人の約3倍に達している。
その半面で、ロシアの一般市民は役人が私腹を肥やしたり、権力を乱用したり、警官がゆすり行為を働いたりしていることを、そして官僚体質がロシア経済の活気を奪っていることを嫌っている。ナバルニーのメッセージがリベラル派の野党指導者たちの言葉よりはるかに大きな共感を呼んでいるのは、そのためだ。
ナバルニーは政府への抗議活動を行ってはいるが、親欧米のリベラルな主張を展開しているわけではない。最近も反移民運動に参加するなど、極めてナショナリスト的な傾向が強い。
国民は政治に関心がない
ロシア人の圧倒的大多数は、リベラル派が嫌いだ(欧米の手先だと思っている)。民主主義者も嫌いだ(過去に国を滅ぼした犯人だと思っている)。「革命」など願い下げだと思っている(過去に起きた「革命」がどういう結果をもたらしたかを考えれば無理もない)。それ以上に、大半のロシア人は政治に関心がない。不満は持っているが、怒りは感じていないのだ。
実は、10日にロシア全土でデモに参加した人の数を合計しても、アメリカの感謝祭翌日、クリスマス商戦幕開けの日となる「ブラックフライデー」(今年は11月25日)に買い物に出掛けたニューヨーカーの数より少ない。
ソ連が崩壊した91年(またはロシア革命が起きた1917年)と違って、怒れるロシア人が街を埋めているわけではない。経済の危機が政権の正統性の危機と結び付かない限り、今後も状況は変わらないだろう。歴史上、ロシアで革命が起きたときはいつもこの2つの要素が結び付いていた。
11月のある日、モスクワの総合格闘技の試合会場に姿を現したプーチンが観客からブーイングを浴びせられる事件があった。本来であればプーチンの中核的支持層であるはずの普通の市民が、こうして不満を噴出させたのは極めて異例のことと言っていい。
プーチンにとって本当に脅威なのは、民主主義を求める騒がしい少数派のインテリ層ではなく、この日の格闘技ファンのような物言わぬ大勢の市民たちだ。
役人の汚職と権限乱用を封じ込めることに失敗し、この層の不満を抑え切れなくなったとき初めて、プーチン体制は崩壊の瀬戸際に立たされる。
[2011年12月28日号掲載]