瓦礫の跡に残る見えない苦悩
金融機関は頼れず、いつ手に入るか分からない義援金や支援金の支給を待っている時間はない。男性は以前に10万円の借金をしたことがあるヤミ金融業者に連絡し、30万円を月3割5分(35%)の金利で借りた。違法ではあるが、ほかに選択肢は残っていなかった。
だが結果的にヤミ金融の融資によって、この男性は自らの手で再建の糸口をつかんだ。今では1日800個のかまぼこを製造、移動販売し、毎日のように商品を完売している。
東京を拠点に全国で約170人の顧客を抱えるあるヤミ金融業者は、こうした融資の需要が最近増えていると話す。「仕事の再開に資金が必要な場合だけではない。仕事再開の見込みが生まれれば、給料で返済できるからと借りる人も出てくる。ヤミ金の需要が今後さらに増える兆しはある」
年末に向け状況は深刻化
この業者の元に4月、福島県双葉町に住む内装業の男性(49)から相談の電話が入った。パートで働いていた妻が津波で死亡し、仕事道具もすべて失ったという。「『嫁が流された、嫁が流された』と泣いて電話してきた。『俺もう自殺します』と、かなり取り乱していた」と、この業者は言う。
男性は仕事を再開するために道具を購入したいが、過去に自己破産したため消費者金融には頼れず、ヤミ金に電話をかけてきた。この業者は10万円を2週間3割8分(38%)で融資した。「中小零細企業や個人事業主は今すぐ手元に現金がないと仕事が続けられない」と、ヤミ金業者は言う。「大変な状況だから何とか助けたい」
もちろん金利の高さと違法性を考えれば、ヤミ金融に頼るのはリスクが大きい。だが公的な支援が期待できず、自らの責任で再建に向けて動き出さざるを得ない人たちが多いのが、被災地の現実だ。
援助金も行政も金融機関も頼れない状況の中で、自分たちの力で地域復興のために立ち上がった人たちもいる。宮城県の松島湾に浮かぶ浦戸諸島で漁業再開を目指す「うらと海の子再生プロジェクト」がいい例だ。4月に発足したこの試みは、生産者への支援金を1口1万円で全国から募集するやり方で既に1億円以上を集め、7月には社団法人化した。
集まった支援金の使い方も、ただ資金を渡すだけでなく自立を促すものである必要があると、このプロジェクトの代表理事である小泉善雅は言う。従来から漁業で問題だった補助金頼りの体質が、義援金頼りの体質に変わるだけでは意味がない。小泉たちは、新しい漁業者も増える形での再建を目指している。
今後、被災地とカネをめぐる問題はさらに大きくなる可能性がある。どこからも融資が受けられない状況の中、多くの企業は従業員を解雇、あるいは事業再開そのものを諦めている。
また現在は貯蓄を切り崩して生活する人たちも、失業期間が長くなればそれだけ貯金は目減りする。震災後に職を失った人たちが受け取っている失業保険も、年末に向けて次々と給付期限が切れていく。
塩釜市の笹かまぼこ業者、佐長商店の社長と息子は、どこかに支援の話があると聞けば取りあえず駆け付ける。だが、結局は「やっぱり駄目だった」の繰り返しだ。今では2人のやる気も萎えてきている。そんな今の状況に慣れてきてしまった自分がいることも自覚している。
「本当に諦めたのなら仕方ないだろうが、生きたい、事業を再開したいと思う人を助けるくらいのカネがないものか」と、社長は言う。「国はわれわれを本当に助ける気があるのか、疑いたくなる」
被災者の復興に向けた気力や意欲が完全にそがれる前に、現実的な援助を急ぐべきだ。今のままでは、佐長商店のような会社に希望の光は見えてこない。
[2011年9月14日号掲載]