ロシアを阻む人口減少の罠
そんな事態を防ぐため、プーチンは2000年に大統領になって以来、何かと手を打ってきた。子供が3人以上いる女性には巨額の手当(たいていは1万㌦前後。地方なら小さなアパートを買える額だ)を支給している。バルト3国や中央アジアなどの旧ソ連圏に住むロシア民族の帰国を促すための奨励策も用意した。
一方で現職大統領のドミトリー・メドベージェフは、大々的な反飲酒キャンペーンの先頭に立っている。
こうした対策は、それなりの効果を挙げている。男たちの死亡率はほぼ横ばいとなり、出生率は過去10年でかなり改善された。03年に58歳だった男性の平均寿命は、現在では63歳にまで延びている。
だが「前向きな変化も見られるが、マイナス要素を覆すには足りない」と言うのは、モスクワにある経済高等学院の人口統計学者アナトリー・ビシュネフスキーだ。「既に出生率の増加は頭打ちであり、もっと包括的な解決策が必要だ」
プーチンのユーラシア連合構想は、こうした要望に応えるものでもある。
旧ソ連時代は、労働者や兵士の多くを中央アジアの連邦構成国から調達していた。これらの地域にはイスラム教徒が多く、出生率は高く人口も順調に増えていた。今でも、好景気に沸くモスクワ周辺の建設現場やその他の単純労働には、タジキスタンなど旧ソ連構成国からやって来た貧しい移民労働者が従事している。
ロシア主導で正式な国家連合ができれば、ロシア政府はソ連時代のような経済統合効果を期待できそうだ、という観測もある。例えば労働力の移転だ。ロシアが開発を進める経済特区に、中央アジアの豊富な労働力を期間限定で投入することも可能になるだろう。
ロシアには昔から、アジア人を住民として迎えることに対する強い抵抗感がある。しかし期間限定であれば、移民対策という厄介な問題に手を焼かずに済むかもしれない。
改革がすべての解決策
だがプーチン構想も、シベリアや極東の広大な領土の過疎化という深刻な問題の解決にはならないかもしれない。旧ソ連圏にいるロシア系住民をシベリアや極東地域に定住させようという取り組みは、ほとんど成果を挙げていないからだ。
「ロシア民族なら、当然のようにモスクワに住みたがる。そこに経済的なチャンスがあるからだ。昔からの住民さえ逃げ出すシベリアの奥地には行きたがらない」と、カーネギー国際平和財団モスクワセンターのニコライ・ペトロフは言う。
最終的にはプーチンも人口の縮小に勝てず、ソ連の復活という夢を捨てざるを得なくなる。そして政府の介入を減らし、真に自由な市場改革へと向かうのではないか──そんな期待を語るのは、メドベージェフ派とされるモスクワのシンクタンク、現代開発研究所のエフゲニー・ゴントマクヘルだ。
「領土のあらゆる場所に人を住まわせる必要があるとは言うまい。しかし戦略的な理由から、中国との国境地帯にはロシア人を住まわせておかないといけない。経済成長著しいアジアの一員になりたければ、気は進まなくとも国を開放し、改革を行うしかない」
人口の縮小を食い止め、増加に転じさせる方法はある、とゴントマクヘルは言う。「しかし、それには指導者たちの思考方法を根本的に変える必要がある。経済的な機会を創出し、国家主導の計画などは捨てることだ。これは歴史的な大事業だ。そして、私たちに残された時間はあまりない」