最新記事

スポーツ

マンUを破ったオイルマネー

英サッカー・プレミアリーグに中東やロシアなど新興国の資本が続々と流入。カネにものをいわせた補強戦略に反発も

2011年12月9日(金)11時51分
マイケル・ゴールドファーブ

大金星 弱小クラブだったマンチェスター・シティーが10月23日の試合では強豪マンUを圧倒 Darren Staples-Reuters

 イギリスの、そして世界のサッカーファンに衝撃が走った。

 10月23日、英サッカー・プレミアリーグのマンチェスター・シティーが、同じくマンチェスターを本拠とする強豪マンチェスター・ユナイテッド(マンU)と対戦。シティーがマンUに6対1で勝利を収めた。シティーがアウェーの試合で、マンUをこれほどの大差で下したのは85年ぶりだ。

 マンUのファンが落胆しただけではない。サッカーファンの多くが憂鬱な気持ちになった。この試合結果により、「庶民のスポーツ」が拝金主義的なビジネスに変質したことをあらためて思い知らされたからだ。

 シティーは長年、常勝マンUの陰に隠れた弱小クラブだった。マンUがプレミアリーグで過去5年に4度優勝しているのに対し、シティーが前回優勝したのは40年以上も前だ。

 状況が急激に変わり始めたのは、3年前。08年に中東の産油国アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビのシェイク・マンスール王子が率いる投資会社「アブダビ・ユナイテッド・グループ・フォー・デベロップメント・アンド・インベストメント」がシティーを買収。豊富な資金力を武器に貪欲に選手補強を行い、チーム力を強化した。今季は、プレミアリーグのトップを競うことが確実だ。

 なぜ、マンスールは万年成績不振だったクラブを買収しようと思ったのか。

「ペルシャ湾岸諸国のアラブ人は大のサッカー好きだし、君主たちは自慢になる資産を買いたがっている」と、英コベントリー大学のサイモン・チャドウィック教授(スポーツビジネス・マネジメント)は言う。「フランスのパリ・サンジェルマンやスペインのマラガにも中東の資本が入っている」

アメリカ人富豪は脇役

 もっとも、趣味と虚栄心だけで大金をつぎ込んでいるわけではない。世界で最も人気のあるスポーツを利用して、国際政治への影響力を強めようという計算も働いていると、チャドウィックは指摘する。22年のワールドカップ(W杯)招致に成功したカタールはその典型だ。「招致活動や世界のサッカー界の有力者たちと頻繁に接する過程を通じて、国際的影響力を強めようとしている」

 サッカーが盛んなヨーロッパでも、イギリスのクラブは「お買い得」なので外国投資家に人気がある。そう指摘するのはアメリカのスポーツ関連テレビ局で幹部を務めた経験があり、在英30年以上のマイク・カールソンだ。「非常に魅力的なビジネスだ。イギリスのファンのクラブに対する忠誠心は揺るぎないものがある」

 外国資本の流入に比較的寛容なイギリスの風土も、外国人投資家のクラブ買収を後押ししていると、チャドウィックは言う。今やプレミアリーグに所属するクラブの半数は、外国人が所有している。

 中にはアメリカ人が所有しているクラブもある。マンUのオーナーは、NFL(全米プロフットボールリーグ)のタンパベイ・バッカニアーズを所有するグレーザー家だ。リバプールを所有するのは、大リーグのボストン・レッドソックスのオーナーで投資家のジョン・ヘンリー。アーセナルは、NBA(全米プロバスケットボール協会)やNFLなど多くのプロスポーツチームを所有する起業家のスタン・クローンケが買収した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比+2

ワールド

ベトナム国会議長、「違反行為」で辞任 国家主席解任

ビジネス

ANAHD、今期18%の営業減益予想 売上高は過去

ワールド

中国主席「中米はパートナーであるべき」、米国務長官
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 8

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中