マンUを破ったオイルマネー
英サッカー・プレミアリーグに中東やロシアなど新興国の資本が続々と流入。カネにものをいわせた補強戦略に反発も
大金星 弱小クラブだったマンチェスター・シティーが10月23日の試合では強豪マンUを圧倒 Darren Staples-Reuters
イギリスの、そして世界のサッカーファンに衝撃が走った。
10月23日、英サッカー・プレミアリーグのマンチェスター・シティーが、同じくマンチェスターを本拠とする強豪マンチェスター・ユナイテッド(マンU)と対戦。シティーがマンUに6対1で勝利を収めた。シティーがアウェーの試合で、マンUをこれほどの大差で下したのは85年ぶりだ。
マンUのファンが落胆しただけではない。サッカーファンの多くが憂鬱な気持ちになった。この試合結果により、「庶民のスポーツ」が拝金主義的なビジネスに変質したことをあらためて思い知らされたからだ。
シティーは長年、常勝マンUの陰に隠れた弱小クラブだった。マンUがプレミアリーグで過去5年に4度優勝しているのに対し、シティーが前回優勝したのは40年以上も前だ。
状況が急激に変わり始めたのは、3年前。08年に中東の産油国アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビのシェイク・マンスール王子が率いる投資会社「アブダビ・ユナイテッド・グループ・フォー・デベロップメント・アンド・インベストメント」がシティーを買収。豊富な資金力を武器に貪欲に選手補強を行い、チーム力を強化した。今季は、プレミアリーグのトップを競うことが確実だ。
なぜ、マンスールは万年成績不振だったクラブを買収しようと思ったのか。
「ペルシャ湾岸諸国のアラブ人は大のサッカー好きだし、君主たちは自慢になる資産を買いたがっている」と、英コベントリー大学のサイモン・チャドウィック教授(スポーツビジネス・マネジメント)は言う。「フランスのパリ・サンジェルマンやスペインのマラガにも中東の資本が入っている」
アメリカ人富豪は脇役
もっとも、趣味と虚栄心だけで大金をつぎ込んでいるわけではない。世界で最も人気のあるスポーツを利用して、国際政治への影響力を強めようという計算も働いていると、チャドウィックは指摘する。22年のワールドカップ(W杯)招致に成功したカタールはその典型だ。「招致活動や世界のサッカー界の有力者たちと頻繁に接する過程を通じて、国際的影響力を強めようとしている」
サッカーが盛んなヨーロッパでも、イギリスのクラブは「お買い得」なので外国投資家に人気がある。そう指摘するのはアメリカのスポーツ関連テレビ局で幹部を務めた経験があり、在英30年以上のマイク・カールソンだ。「非常に魅力的なビジネスだ。イギリスのファンのクラブに対する忠誠心は揺るぎないものがある」
外国資本の流入に比較的寛容なイギリスの風土も、外国人投資家のクラブ買収を後押ししていると、チャドウィックは言う。今やプレミアリーグに所属するクラブの半数は、外国人が所有している。
中にはアメリカ人が所有しているクラブもある。マンUのオーナーは、NFL(全米プロフットボールリーグ)のタンパベイ・バッカニアーズを所有するグレーザー家だ。リバプールを所有するのは、大リーグのボストン・レッドソックスのオーナーで投資家のジョン・ヘンリー。アーセナルは、NBA(全米プロバスケットボール協会)やNFLなど多くのプロスポーツチームを所有する起業家のスタン・クローンケが買収した。