イギリス、今さら暴動のなぜ
イギリスでは若年層の失業率が19%に達し、その数字は貧困地区で急上昇している。メディアは所得の平等化が進んでいると言うが、世間では所得格差がアメリカよりひどいとの声があふれている(実際には、アメリカのほうが格差が大きいが)。昨年発足した保守党政権は緊縮財政に踏み切り、短期間にいくつもの措置を実行しているため、その影響は各地で目に見える形で表れている。
第3の要因はソーシャルメディアだ。おかげで、最も恵まれない環境にある10代の少年少女も集団を組織する力を手にしている。今回の暴動で一番よく利用されたのが、最もミニマルなソーシャルメディアと言えるツイッターだ。
暴動が発生してから2日目の夜には、ツイッターの書き込みに目を光らせているはずの警察の動きを警戒して、スマートフォンの中でもデータの保護度が高いブラックベリーの活用が目立った。
ソーシャルメディアの効率性が特に際立ったのがロンドンだ。ロンドンでは8月8日、市内30カ所以上で暴動が発生した。1つの場所に大群衆が押し寄せるケースと比べてはるかに精妙で、効果的な組織化の手法だ。ツイッターを結集の手段の1つとした09年のイランでの民衆デモに似ている。
アラブのデモとは無関係
これら3つの要因は、単独では暴動の引き金にならなかっただろう。だが3つが重なったとき、互いを増幅させる事態になった。とはいえ、この3つの要因だけで今回の暴動の説明がつくのか? イエスと断言することはできない。
社会不安は異なる痛みや怒り、失望や期待を抱える人々を結束させる。イギリスでは何年も前から若年層の失業率が、とりわけマイノリティー(少数派)が多い貧困地区で高かった。だがそうした問題が、暴力という形で噴き出したのは今回が初めてだ。「街頭」はずっと前から貧しい地区にあったのにもかかわらず、だ。
となれば、第4の要因──すなわちアラブ世界の民衆デモが、ある種の波及効果をもたらしていると考えるべきなのか? 現状を見る限り、答えはノーだ。「アラブ効果」がロンドンの暴動の影響源として語られたことは一度もない。
世界各地でのこうした動きには共通する前提がある。中流層を夢見つつ失業と貧困に苦しむ人々の存在だ。彼らは富裕なエリート層との間の大きな格差を痛いほど感じている。その行動はこれまで幾度も起こった社会的革命の1つであり、耐え難い社会の現状に対する異議申し立てだ。
カイロの広場に集まった中流層の若者は、平和的な抗議活動を通じて自らの主張に耳を傾けさせた。イギリスの貧困層は暴動によって言いたいことを叫んだ。英政府が今回の事件を若者の犯罪と片付け、不良少年を扱う教師のように対処すれば、事態を見誤る。それは政治的にも大きな誤りだ。
[2011年8月24日号掲載]