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美人スパイ、セクシー写真でひと稼ぎ?

ロシアに送還されたアンナ・チャップマンのセクシー写真公開は、司法取引で禁じられた「不当利益」に当たらないのか

2010年8月31日(火)17時30分
マーク・ホーゼンボール(ワシントン支局)、オーエン・マシューズ(モスクワ支局)

国民的ヒロイン チャップマンの撮影風景はユーチューブにも流出した via youtube.com

 ロシア人スパイのアンナ・チャップマンを祖国ロシアに強制送還した際、アメリカ側の担当者は彼女に「厳しい条件」を突きつけたという。スパイとしての体験談を売って金儲けしないという条件だ。

 チャップマンと彼女の弁護士が著名した司法取引の文書には、こう記されている。「ロシアの不法スパイとしてのアメリカでの活動、あるいは逮捕・起訴につながる事実や状況」に関する情報を提供することで得る「あらゆる利益や収益」を米政府に譲渡する──。

 だが、チャップマンを含む10人のスパイがロシアに送り返された時点で、ニューズウィークは、チャップマンが体験談を売ることはなくても、語ることくらいは検討しているだろうと指摘した。実際、彼女は今のところまだ口を開いてはいないものの、すでにセレブ好きメディアに接近中で、先週にはロシアの男性誌ジャラ(「熱」の意)でセクシーな写真を披露した。

 この写真でチャップマンが報酬を得たかどうかは微妙なところだ。ロシアのタブロイド紙ジジンはサイト上で、写真撮影の様子を収めた流出ビデオ映像を掲載。そのせいで写真のインパクトが薄れたため、ジャラ誌は怒り心頭。著作権侵害でチャップマンを訴えることも考えている。 



モデル業や広告出演なら問題なし?

 ただし、チャップマンが写真撮影で報酬を得た証拠はない。ジャラ誌の編集長はウォール・ストリート・ジャーナル紙に対して、チャップマンから「独占インタビューと独占撮影」への同意を取り付けたが、モスクワのホテルの一室で7月中旬に行われた撮影に関する報酬を渡した事実はない、と語っている。「彼女に対して金銭的な義務は負っていない。彼女に報酬を支払う予定はなかったし、彼女も報酬を求めていないと感じた」

 司法取引の際にチャップマンの弁護を担当したアメリカ人弁護士、ロバート・バウムに言わせれば、仮に報酬を受け取ったとしても、司法取引の契約で禁じられた「不当利益」にはあたらないという。バウムは本誌の取材に、メールで次のように返答した。「彼女が報酬を得たかどうかは知らないが、報酬を得たとしても、彼女にはその金を保持する権利がある。事件がらみの暴露話で利益を得ることは(司法取引で)禁じられているが、彼女の知名度やセレブとしての地位を使って金を稼ぐことは禁じられていない」。さらにバウムは電話で、活動範囲を「モデル業と写真撮影、広告出演」に限っていれば司法取引の契約違反にはならないだろうと付け加えた。

 チャップマンはロシア帰国後、KGB(旧ソ連国家保安委員会)の後継組織であるSVR(対外情報庁)とも、スパイ活動の詳細を明かさないという契約を交わしている。

ポルノ映画出演のオファーも

 とはいえ、彼女はいまやロシアの国民的ヒロイン。ウラジーミル・プーチン首相はチャップマンを含む10人のスパイと面会して愛国的な歌を歌ったし、各政党はチャップマンの政治家転身をほのめかしている。

 だから、チャップマンが遠慮することなく自己PRに走っているのも驚く話ではない。ジャラ誌に掲載された写真はチャップマンのフェースブックのサイトでも公開されているし、ジジン紙のサイトに動画がアップされる以前に、有力紙コムソモルスカヤ・プラウダにも掲載されていた。 

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