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災害パキスタン洪水救援で勢いづく軍部
政府の被災者対策が遅れるなか、陸軍参謀長が強力なリーダーシップで支持を急拡大している
63年前にイギリスから独立して以来、パキスタン軍は約半分の期間この国を支配してきた。7月末に約600万人が被災する大洪水が発生してから、その軍部がまた権力を握ったのかと国民が錯覚するような事態が続いている。
連日テレビのニュース番組が流すのは、アシュファク・キヤニ陸軍参謀長が洪水被災者の元を訪れ、孤立した山間部の村々に軍のヘリコプターで食料や水を落とし、救援活動を行う場面だ。
その一方で、文民政府の高官の姿はほとんど目にしない。国土の5分の1が浸水した被災地をザルダリ大統領が訪れたのは、発生から2週間以上たってからだった。
洪水発生直後、ザルダリは側近の助言を無視して予定どおりフランスとイギリスへの外遊に出発。訪問先にはフランス・ノルマンディー地方のシャトーも含まれていた。その行動は国民に無関心と冷淡さの表れと受け止められ、「(被災者のため)他国の支援を集めようとした」という見え透いた言い訳を信じる者はいない。
文民政府よりずっと手際がよかったのがイスラム過激派組織だ。その救援チームは05年にカシミール地方で起きた大地震のときと同じように、今回も迅速な救援活動を行った。
だが今回政治的に最もうまく立ち回ったのは何といってもパキスタン軍だろう。キヤニが参謀長に就任した3年前、パキスタン軍は陸軍参謀長を兼任していたムシャラフ前大統領による長期支配によって大いに信頼を損ね、針のむしろ状態だった。
国民議会の野党議員アヤズ・アミルによれば、キヤニのリーダーシップで軍への支持が大幅に改善しており、キヤニが「間もなく他を圧倒し、政府をも手中に収めるのは形式的な手続きを待つばかり」な状態だという。
47年以来4回起きた軍事クーデターが新たに勃発する可能性は恐らくない。だが災害救援と復興支援によって軍の役割はさらに拡大しそうだ。その結果、キヤニは国内で最も信頼の置ける指導者として国民に強い印象を与えることになる。ザルダリ「死に体」政権の決定にキヤニの承認が必要になる可能性もある。
今のキヤニに怖いものは何もないだろう。
[2010年8月25日号掲載]