最新記事

災害

パキスタン洪水救援で勢いづく軍部

政府の被災者対策が遅れるなか、陸軍参謀長が強力なリーダーシップで支持を急拡大している

2010年8月18日(水)12時36分
ロン・モロー(イスラマバード支局長)、サミ・ユサフザイ(イスラマバード支局)

 63年前にイギリスから独立して以来、パキスタン軍は約半分の期間この国を支配してきた。7月末に約600万人が被災する大洪水が発生してから、その軍部がまた権力を握ったのかと国民が錯覚するような事態が続いている。

 連日テレビのニュース番組が流すのは、アシュファク・キヤニ陸軍参謀長が洪水被災者の元を訪れ、孤立した山間部の村々に軍のヘリコプターで食料や水を落とし、救援活動を行う場面だ。

 その一方で、文民政府の高官の姿はほとんど目にしない。国土の5分の1が浸水した被災地をザルダリ大統領が訪れたのは、発生から2週間以上たってからだった。

 洪水発生直後、ザルダリは側近の助言を無視して予定どおりフランスとイギリスへの外遊に出発。訪問先にはフランス・ノルマンディー地方のシャトーも含まれていた。その行動は国民に無関心と冷淡さの表れと受け止められ、「(被災者のため)他国の支援を集めようとした」という見え透いた言い訳を信じる者はいない。

 文民政府よりずっと手際がよかったのがイスラム過激派組織だ。その救援チームは05年にカシミール地方で起きた大地震のときと同じように、今回も迅速な救援活動を行った。

 だが今回政治的に最もうまく立ち回ったのは何といってもパキスタン軍だろう。キヤニが参謀長に就任した3年前、パキスタン軍は陸軍参謀長を兼任していたムシャラフ前大統領による長期支配によって大いに信頼を損ね、針のむしろ状態だった。

 国民議会の野党議員アヤズ・アミルによれば、キヤニのリーダーシップで軍への支持が大幅に改善しており、キヤニが「間もなく他を圧倒し、政府をも手中に収めるのは形式的な手続きを待つばかり」な状態だという。

 47年以来4回起きた軍事クーデターが新たに勃発する可能性は恐らくない。だが災害救援と復興支援によって軍の役割はさらに拡大しそうだ。その結果、キヤニは国内で最も信頼の置ける指導者として国民に強い印象を与えることになる。ザルダリ「死に体」政権の決定にキヤニの承認が必要になる可能性もある。

 今のキヤニに怖いものは何もないだろう。

[2010年8月25日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮の金総書記、特殊作戦部隊の訓練視察 狙撃銃試

ビジネス

TikTok米事業売却計画保留、中国が難色 トラン

ワールド

アングル:ミャンマー大地震で中国が存在感、影薄い米

ビジネス

米国株式市場=ダウ2231ドル安、ナスダック弱気相
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描か…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中