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復興支援

アフガン会議「権限委譲」の危うさ

2010年7月22日(木)18時06分
ロン・モロー(イスラマバード支局長)、サミ・ユサフザイ(イスラマバード支局)

 これまでは腐敗した役人たちの手に渡るのを恐れるあまり、国庫に入ったのは外国からの援助金のうち20%程度に過ぎなかった。だが今回、国際社会は今後2年以内に少なくとも援助金の半分をアフガニスタンの国庫に直接入れることで合意した。こうした援助金の大半は、カルザイらが「国民生活を変容させる」ために選び出した20数件の優先的な開発プロジェクトに向けられることになっている。

 今回に限って支援国は、何かをやれと命じるのではなくアフガニスタンが何をしたいかに耳を傾けたとガニ元財務相は評価する。

「やっとアフガニスタン政府と国際社会の間に未来に向けた戦略的な理解が生まれた」とガニは本誌に語った。「治安維持に限らずあらゆる点で、アフガニスタン人のリーダーシップの下でアフガニスタン人が自らの問題として取り組むという(権限の)移行が非常に明確に感じられた」

 こうした一歩を踏み出すには、アフガニスタンの人々自身が、計画の遂行や自分たちの未来に対して今以上に責任を負う必要がある。これまで同様カルザイは、政府高官に資産公開を求めたり汚職を摘発する組織のてこ入れを図るなど汚職との戦いを誓っている。

「大統領からの明確な指示を実行できるかどうかは政府や閣僚にかかっている」とガニは言う。ガニは昨年8月の大統領選挙でカルザイの対抗馬として出馬した。「任務に取り組むのかそれとも大統領を無視するつもりなのか、直ちにはっきりと態度表明すべきだ」

銅鉱山をめぐる契約の「闇」

 ガニは汚職問題の深刻さに目をつぶろうとしているわけではない。「汚職は満ち引きする潮のようにこの国全体を覆っている」と言うのは、国際危機グループ(ICG)のキャンディス・ロンドー上級アナリストだ。

 ガニの言うように、貧しさにあえぐこの国では「ささいな汚職」など存在しない。「年収200ドルの人が賄賂を贈るために30ドルの出費を余儀なくされたとすれば、それは本人にとってささいな額ではない」

 建設資材や医薬品、食糧、燃料の輸入をめぐる汚職に、担当閣僚である財務相や通商相、保健相がきちんと対応するかどうかにも注目が集まるだろう。こうした汚職に対し貿易業者や消費者は強い怒りを感じている。

 また、全人口の約80%を占める農業従事者に対し、農業省が資金やノウハウ、技術の提供を始められるかどうかも政権の真価を測るテストになるだろう。

 アフガン経済の未来を担うかもしれない鉱業をめぐっても、政府の対応が注目される。ロシアとアメリカの地質学者はアフガニスタンで鉄や銅、貴金属、リチウムや希土類といった地下資源を発見しており、これが天文学的な額の富をもたらす可能性もある。

 だがカブールの南にある銅鉱山の採掘権をめぐっては、鉱工業省が透明性に欠ける契約を中国企業と交わしたという疑惑が以前から浮上しているのだ。

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