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国連事なかれ主義の潘基文が怒った!
常に中立だった潘国連事務総長が、韓国哨戒艦沈没事件では感情むき出しで祖国に肩入れ
異例の訴え 潘は北朝鮮に対する制裁さえ求めたが、安保理メンバーの立場はいろいろ(写真は5月3日) Chip East-Reuters
原則として、国連事務総長は国連安全保障理事会の顔を立てるもの。さらに言えば、国連を代表する立場から、母国との個人的なつながりを示すことも慎まなければならない。少なくとも建前上はそうなっている。だが5月24日、国連で驚愕すべき事態が起こった。潘基文(バン・キムン)事務総長が、この大原則に反して個人の感情をあらわにしたのだ。
韓国出身の潘は記者会見で、韓国海軍哨戒艦が北朝鮮の魚雷攻撃で沈没した事件について、安保理が北朝鮮に対して非難声明、あるいは制裁措置にまで踏み込むべきだと発言した。
彼の発言は表面上は外交に配慮した形式的なものだった。「国際的な平和、安全の維持という責務を全うする立場において、安保理が適切な措置をとることを信じている」という言葉で潘は表現した。それでもメッセージは明らかだ。潘の会見に先立ち、韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領がすでに北朝鮮の攻撃で46人の死者を出したこの事件について、安保理に問題を提起する方針を示していた。
「対話で解決」が従来の姿勢
これまでの潘の極めて慎重だった外交姿勢から考えると大きな方向転換だ。09年7月に中国の新疆ウイグル自治区で騒乱が発生したとき、潘はいつものように控えめな態度だった。「国内外での意見の対立は、対話によって平和裏に解決されるべきだ」と彼は言った。
コソボがセルビアからの独立を宣言した08年2月にも(アメリカは独立を承認し、ロシアは認めなかった)、潘は双方に配慮する中立姿勢を崩さなかった。「コソボや周辺地域での紛争や不安定化につながる可能性のある言動を避けて対応する」ようすべての当事者に強く求めたと、安保理で潘は述べている。
しかし今回の北朝鮮の件では、潘は迷うことなく韓国政府側に回った。安保理メンバーのアメリカや日本なども韓国支持を表明している。問題は、すべての理事国から同意を得られているわけではないということだ。中国は北朝鮮に対する国連決議はもちろんのこと、北朝鮮を非難することさえ強硬に反対した。
私情をはさむことなく中立に徹してきた潘が、なぜ今回は一方の肩をもったのか。06年に国連事務総長に当選する以前の潘は、韓国で外交官を務め、04年には外交通商部長官(外務大臣)に任命された。彼は南北の外交問題に深く携わり続けた。90年代初めには交渉を主導して朝鮮半島の非核化に関する共同宣言の実現を後押し。05年には、朝鮮半島の緊張を和らげるべく、6者協議に韓国代表として出席した。
常任理事国に逆らえない事務総長
暗黙の了解として、国連事務総長は安保理常任理事国との対立を避ける場合が多い。事務総長という立場には社会的地位があるものの、実権を握るのは国連加盟国、とりわけ常任理事国メンバーだ。潘が国連で何らかの決定を下したいと思ったら(特に気候変動問題など)、常任理事国の重要国の機嫌をとり、丸め込まなければならない。彼らなしには話が進まないのだ。
中国のような大国に逆らうことは、職務上のリスクもはらむ。潘の任期は2011年に終了する。常任理事国5カ国のうち1国でも拒否権を発動すれば、再任は果たせない。
潘は、北朝鮮に対する強い非難の裏に個人的な感情があることを隠さなかった。「(韓国への)強い情と責任を感じている。事務総長として、朝鮮半島で起こっていることは何より心が痛む出来事だ――あれは私の祖国だ」
情というものは、時に政治すら超越するということなのだろう。