最新記事

イデオロギー

中国タカ派「平和のための軍拡」の真意

2010年4月5日(月)14時52分
アイザック・ストーン・フィッシュ(北京支局)

 今年中にも世界第2の経済大国になろうという中国だが、同国の野心を恐れる外国の不安を打ち消すだけの説得力あるイデオロギー探しに苦心している。過剰に拡大して崩壊したソ連や、傲慢さが同盟国を遠ざけたアメリカから学んだのか、中国政府はこれまで「平和的台頭」を打ち出してきた。

 中国の台頭は過去の帝国の例とは違って世界を脅かすものではない、という姿勢をアピール。中国が重視するのは「(台湾やチベットなど)核心的で重要な国益だけだ」と、共産党報道官は言う。「1万年たとうとも、他国を侵略することはない」

 一方で、軍部の中には世界で積極的な役割を担うべきだという声もある。最近のタカ派議論で注目されているのは、人民解放軍大佐で中国国防大学教授の劉明福だ。

 劉は新著『中国夢』で、アメリカが中国の無力化を試みるのを防ぐためにも、長期的な軍事的優位を目指すべきだと主張している。この立場は中国政府の公式見解ではないものの、「人民解放軍内には確かに存在する」と全米アジア研究所の安全保障問題専門家ロイ・カンプハウゼンは言う。

アメリカ牽制にも必要

 劉は平和的台頭戦略を直接は批判していない。だが、日本やソ連のような野心的なライバルを抑え付けてきたアメリカが中国を封じ込めるのは明らかだと強調する。アメリカを牽制するためにも軍拡が必要だと劉は書く。「平和を望むなら戦争に備えよ、だ」

 一方で劉は、中国の台頭が国際社会の軋轢を生むわけではないと主張する。中国には「優れた文化」があるから歓迎されるという。

 とはいえ中国の影響は既に議論を呼んでいる。国際機関はならず者国家との関わりを批判。中東やアフリカ諸国の人々は中国人労働者の流入に反発している。中国の台頭が世界に平和をもたらす未来は、まだ描けそうにない。

[2010年4月 7日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も

ワールド

米加首脳が電話会談、トランプ氏「生産的」 カーニー

ワールド

鉱物協定巡る米の要求に変化、判断は時期尚早=ゼレン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 6
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 7
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 8
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 9
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中