最新記事

旧ソ連

ウクライナ大統領選「半島」暴発リスク

大統領選真っ最中のウクライナにロシアの圧力が増している。その最大の焦点は黒海沿岸のクリミア半島だ

2010年1月18日(月)18時33分
アンダース・オスルント(ピーターソン国際経済研究所上級研究員)

意中の人 ロシア政府は大統領選でティモシェンコの勝利を望んでいるらしい(1月17日、出口調査の結果を受けた記者会見) David Mdzinarishvili-Reuters

 ウクライナとロシアほど似た者同士の隣人は珍しい。ともに主な民族は東スラブ系、主な宗教はキリスト教の東方正教。90年代に旧ソ連が崩壊するまで3世紀以上にわたり、同じ国に属していた。

 しかし、文化が似ているからと言って仲良しとは限らないのが国と国の関係だ。ロシア人の多くはウクライナをいわば「リトル・ロシア」と見なし、独立した国と認めようとしない。今回のウクライナ大統領選にも、ロシアはそういうスタンスで臨んでいるようだ。

 極めて深刻な経済危機に苦しむウクライナに、いまロシアはさらに新しい危機をつくり出そうとしているらしい。その舞台は、黒海に突き出すウクライナ南部のクリミア半島。ロシア系、ウクライナ系、クリミア・タタール系(イスラム系)を中心に200万人が住む地域である。現在クリミアはウクライナ領内の自治共和国だが、ロシア政府は最近この地域の領有権を主張している。

いがみ合い続ける2つの国

 ソ連崩壊後最初のロシア大統領であるボリス・エリツィンは、帝国型国家を目指さない意向を打ち出し、ウクライナの主権を尊重。両国は97年に条約を結び、ロシアがウクライナの国境を承認し、ウクライナがクリミア半島のセバストポリ港基地をロシアに20年間貸与することで合意した。

 2000年にロシア大統領に就任したウラジーミル・プーチンは、エリツィンと異なり、旧ソ連時代を懐かしむ勢力に共感を示してきた。04年のウクライナ大統領選でプーチンは、親ロシア派の候補ビクトル・ヤヌコビッチに公然と肩入れした。しかし最終的には、いわゆる「オレンジ革命」により親欧米派のビクトル・ユーシェンコが大統領の座に就いた。

 以来、両国の関係は悪化する一方だ。ロシアは06年1月と09年1月に、ウクライナに天然ガスを送るパイプラインを遮断。08年にはウクライナのNATO(北大西洋条約機構)加盟問題をめぐって、ウクライナの独立を奪う構えまでちらつかせた。

 08年8月にロシアとグルジアの間で紛争が勃発すると、ロシアはクリミア駐留の部隊8000人を現地に差し向けた。するとユーシェンコはそのロシア部隊の再入国を認めない意向を示した上、グルジアにミサイルを提供した(このミサイルでロシア軍機が数機撃ち落された)。

 ロシアはウクライナに苛立ちを強めている----ウクライナはグルジアに味方して部隊を派兵した。ロシアの外交官を不当に国外追放した。ロシア政府がクリミアのロシア系市民にロシアのパスポートを発効していることに、神経質になり過ぎている......。

ロシアの狙いは基地延長?

 こうした情勢下で、ウクライナの大統領選は行われる。実質的には、04年にも出馬したヤヌコビッチとユリア・ティモシェンコ首相の2人の争いだ。今回ロシアは、ティモシェンコの当選を望んでいるようだ(編集部注----1月17日の第1回投票の出口調査によると、ヤヌコビッチが1位、ティモシェンコが2位となり、2月7日に両者で決戦投票が行われる見通し)。

 問題は、選挙がすんなり結着しない場合だ。なにしろ、ウクライナの軍と治安部隊はユーシェンコ大統領(ティモシェンコよりはヤヌコビッチを支持する)が牛耳り、治安維持を担当する内務省は(ロシア政府の意中の候補である)ティモシェンコが抑えている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏CPI、4月はサービス上昇でコア加速 6月

ワールド

ガザ支援の民間船舶に無人機攻撃、NGOはイスラエル

ワールド

香港警察、手配中の民主活動家の家族を逮捕

ビジネス

香港GDP、第1四半期は前年比+3.1% 米関税が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 8
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中