英会話講師を殺した安全な国
「交際」報道に憤る遺族
ホーカーが日本での生活を満喫していたことは確かなようだ。フェイスブックには、友人と飲んでいる写真や、情熱と愛情に満ちた文章が載っている。6月には、恋人のライアン・ガーサイドも英会話講師として来日する予定だった。
「娘は日本を愛していた。日本人と出会うことが好きで、日本は信頼と敬意に基づいた素晴らしい国だと考えていた」とウィリアムは4月1日に声明を出した。
よく顔を出していた行徳の数軒のバーでも、ホーカーは思いやりのある気さくな女性として評判だった。ある知人の男性によれば、英文法の教科書を持ってバーに現れたこともあるという。会話だけを教えることが多い英会話講師としては珍しいことだ。
ホーカーの同僚らは犯人だけでなく、メディアにも怒りを感じている。ホーカーと市橋が「交際していた」という報道によって、親族や友人は傷つけられた。彼らが記者にほとんど口を開かないのは、事実を歪曲して2人に「関係」があったと報じたがるメディアに不信感をいだいているからだ。
今回の事件はイギリス国内で、2000年に日本で行方不明になり、翌年死体で発見された英国人女性ルーシー・ブラックマンの事件の記憶をよみがえらせた。市橋の自宅前で職務質問中に逃走を許した県警の能力を疑問視する声もある。だがブラックマン事件と違って、容疑者の顔写真をただちに公開するなど、初動捜査が迅速だった点は評価されている。
ホーカーの同僚が集う行徳のバーでは、テレビに映った市橋の顔写真が冷たい沈黙で迎えられた。
「ここは暮らしやすい場所だった。家賃は手ごろだし、東京から近いので、多くの英会話講師が喜んで住んでいた」と、あるバー経営者は言う。「だが1人の女性の不運な過ちと、1人の頭のおかしい男がすべてを変えてしまった」
[2007年4月11日号掲載]