ありがた迷惑な「世界遺産」登録
自然保護より開発が先
世界遺産センターの台所事情は非常に厳しい。職員は100人未満、歳入は寄付を含めて2000万ドル程度。遺産の保護に苦労する貧しい国々を助けたくとも、これではまるで力が足りない。「センターには10倍の資金が必要だ」と世界遺産基金のモーガンは言う。
ユネスコの働き掛けが感謝されるとは限らない。ユネスコは破壊の大きな脅威にさらされていると思われる遺産を「危機遺産」に指定、最悪の場合は登録を抹消する。
72年に世界遺産条約が採択されて以来、登録を抹消されたケースはドレスデン以外にもう1つある。オマーンの「アラビアオリックスの保護区」だ。オマーン政府が石油採掘のために自然保護区を90%縮小したため、ユネスコは07年に世界遺産登録を取り消した。
アメリカのイエローストーン国立公園は95年、周辺で金の採掘計画が持ち上がったことから危機遺産に指定された(03年に解除)。これをきっかけにアメリカはユネスコの干渉に対する反発を強めた。
本当に保護が必要な遺産に手厚い援助を行うために、登録件数を絞るべきかもしれない。
過去5年でユネスコは100件以上を世界遺産に認定した。登録件数の増加ペースが速過ぎるという批判もある。「数が増えれば、『世界遺産』のブランドイメージが弱まる」とNPO(非営利組織)世界文化遺産財団のジョナサン・フォイルは語る。
だが一部の国にとって、世界遺産の登録件数は勲章の数のようなもの。イタリアとスペインは遺産最多国の座を懸け、長年しのぎを削っている。こうした争いを封じるため、ユネスコは1国につき推薦件数を年間2件に制限した。
しかし、そもそも世界遺産というコンセプトそのものに弱点があるとも言える。地球上の偉大な遺産を未来に残したければ、世界遺産などに登録せず、そっとしておくのも1つの手かもしれない。
[2009年8月26日号掲載]