最新記事

国際関係

ドイツとロシアの恋の行方

2009年8月31日(月)15時12分
オーエン・マシューズ(モスクワ支局)、シュテファン・タイル(ベルリン支局)

プーチンが一枚上手?

 現在ロシアに支店を持つドイツ企業は約5000社。彼らにとってロシアとの取引は「死活問題」だと、ドイツ・ロシア商工会議所のミハイル・ハルムス会頭は言う。

 こうした経済の結び付きは、政治に明らかな影響をもたらす。「メルケルのように輸出依存型の経済を抱える場合、外交政策は資源へのアクセスとドイツ製品の市場確保の2点に基づいて運営される」と、ロンドンの欧州改革研究所のトマス・バラセクは指摘する。

 しかしドイツのソフトパワー戦略が実を結ぶかどうかは定かでない。メルケルは、ロシアがグルジアの一部から撤退してEU(欧州連合)の停戦協定に従うという昨夏の合意に賛成したが、主な仲介役を買って出たのはニコラ・サルコジ仏大統領だった。

 カリーニングラードにおけるロシアのミサイル配備計画にドイツが難色を示すと、メドベージェフは昨年11月の協議で譲歩してみせた。だがこれは真の外交上の勝利ではなく、むしろ政治的なおとりだとロシアの著名な政治ジャーナリスト、フョードル・ルーキンはみる。自分で問題を起こし、自分のおかげで解決したと強調するのだ。「最初からカリーニングラードに本気でミサイルを配備するつもりはなかった」

 両国の関係を深めるというドイツの政策が、ロシアのグルジアに対する武力の威嚇や、旧ソ連圏での帝国形成の勢いを弱めている気配はない。ウラジーミル・プーチン首相は「われわれとの駆け引きを熟知している」と、ドイツ外交政策評議会のヤン・テシャウは言う。「彼はわれわれの反応と根深い平和主義を知っている」

 ドイツ人がロシア人の魂を理解しているというより、ロシア人がドイツ人の魂を理解しているのかもしれない。

[2009年8月 5日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB幹部、EUの経済結束呼びかけ 「対トランプ」

ビジネス

ECBの12月利下げ幅巡る議論待つべき=独連銀総裁

ワールド

新型ミサイルのウクライナ攻撃、西側への警告とロシア

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 6
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    巨大隕石の衝突が「生命を進化」させた? 地球史初期…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中