日本初の「女性首相」は生まれる?...「高く硬いガラスの天井」を破るための「条件」とは
TO BREAK THE GLASS CEILING
「意志の力」と「モメンタム」
ここで、スウェーデン・イエーテボリ大学を拠点とするV-Dem研究所(デモクラシー多様性研究所)が公表している年次報告書(24年版)を見てみよう。
この報告書はさまざまな指標を用いて、世界179カ国をリベラルデモクラシー国家(G7各国、北欧諸国など)、選挙デモクラシー国家(マレーシアやインドネシア、スリランカなど)、選挙権威主義国家(ロシアやインドやタイなど)、閉鎖権威主義国家(中国や北朝鮮やイランなど)という4つのカテゴリーに分類している。
このうち日本が分類されている「リベラルデモクラシー国家」は32カ国ある。首相を16年以上務めたドイツのアンゲラ・メルケルのように、歴史に名を刻む女性首相がきら星のごとくそろっているように思われるかもしれない。
ところが32カ国における女性首相の実態を検討すると、そうとも言えないことが分かる。
32カ国中、最高権力者としての女性首相をこれまでに複数人出しているのは、わずか7カ国にすぎない。
3人の女性首相を輩出した国は、マーガレット・サッチャー首相(79年)とテリーザ・メイ首相(16年)とリズ・トラス首相(22年)のイギリス、ジェニー・シップリー首相(97年)とヘレン・クラーク首相(99年)とジャシンダ・アーダーン首相(17年)のニュージーランド、そしてアンネリ・ヤーテンマキ首相(03年)、マリ・キビニエミ首相(10年)、サンナ・マリン首相(19年)のフィンランドという3カ国だけだ。
2人の女性首相を出した国はやや増えて、前述のヘレ・トーニングシュミット首相(11年)とメッテ・フレデリクセン首相(19年)のデンマークと、ノルウェー、アイスランド、ラトビアの4カ国になる。
これら女性首相を複数人出した7カ国はいずれも英連邦または北欧の国家だ。二大政党制が定着し政権交代可能な政治状況下で、野党時代に党首になって選挙で勝利して首相になるか、ジェンダー平等な政治文化の下で是々非々で首相に選出されるのが典型的なパターンだ。
複数の女性首相が誕生しているということは、デンマークのフレデリクセンがトーニングシュミット首相に引き立てられたように、「女性首相という経験」が継承され蓄積され得ることを意味するが、その経験はわずか7カ国でしか享受されていないのである。
しかもイギリスですら、サッチャー退陣後、次の女性首相メイが生まれるまでに四半世紀の歳月を要している。