精子バンクより、規制のないSNSやアプリでの「精子提供」を選ぶ女性たち...変質者やトラブルの危険も
THE SEARCH FOR SPERM
規制のない精子取引がブームになった背景には、コロナ禍で「緊急を要さない」医療が後回しにされ、多くの不妊治療クリニックが休診したことに加え、精子バンクが新たな精子提供の受け入れを中止したため精子不足になったという事情がある。コロナ禍の収束後も、精子バンクの利用や不妊治療には多額の費用がかかるため、無料または低料金で精子提供を受けられるネット上の取引を利用する人は増え続けた。
しかも、ネット上の取引では新鮮な精子(最長5日間受精能力を保つ)が手に入る。対して、精子バンクの冷凍精子は女性の体内で最長24時間しか持たず、排卵日にぴったり合わせて注入しなければならない。
利用者の多いマッチングサイトのKDRの場合、当局の規制がない代わりに利用規約に長々と注意事項が記載されている。例えば、ドナーのプロフィールに偽りがないかは、レシピエントが自己責任で判断しなければならない。ドナーとのやりとりについても同様だ。この規約にどのくらい法的拘束力があるかは分からないが、ルールを遵守しない人はサイトから締め出される。
KDRは違法ドラッグの使用や、性感染症と知りつつ取引をすることも禁止している。ドナーとレシピエントが正式な契約書を取り交わすことを推奨し、精子・卵子の取引で対価を要求することを禁じてもいる。人工授精よりもセックスのほうが妊娠確率が高いと「述べたり、ほのめかしたり」するのもアウトだ。
家族の多様性について議論を
フェイスブックで最も人気がある精子取引コミュニティーの1つは登録者がどんどん増え、22年6月には20年6月の3倍に達し、最終的に約2万4000人に上った。23年8月までに、さらに175%増加。精子提供を受けたい人が集まるにつれ、ドナーの参加も増えている。
フェイスブックのコミュニティーでは、ほかの登録者が見守るフォーラムでドナーとレシピエントがやりとりすることになるため、だまされる危険性が多少は減る。投稿内容は授精方法のアドバイスから妊娠報告までさまざま。レシピエントは写真や住所、ドナーに求める条件などを投稿し、ドナー側も自身の写真や成功実績などを披露している。
こうしたコミュニティーでは、ドナーとレシピエントが対面で会う前にビデオチャットをすることが推奨されている。コミュニティーの運営者の多くはドナーだが、レシピエントが運営に加わることもある。
運営者は変質者や荒らしを締め出すよう努力しているが、ネット上のコミュニティーの常でその手の人物の侵入を完全には防ぎ切れない。