精子バンクより、規制のないSNSやアプリでの「精子提供」を選ぶ女性たち...変質者やトラブルの危険も
THE SEARCH FOR SPERM
私は勇気を奮って写真をスワイプし、マッチングが成立したところで連絡先を交換した。ビデオチャットの画面に現れた彼は仕事上がりで、制服を着ていた。消防士のヘルメットを外して髪をかき上げにっこりすると、歯磨き粉のCMに出られそうな真っ白い歯があらわになった。私は目を奪われ、「いい遺伝子をお持ちですね」と口走りそうになった。
夢が現実に近づいた気がした。消防士は子供の頃の写真と家系図を見せてくれた。そこには私が子供に感じてほしい絆があった。子供とは喜んで交流するが、法的・経済的な義務は負いたくないし権利もいらないと、彼は説明した。
願ってもない取り決めだった。
私の投稿が気に入ったと、消防士は言った。アプリのプロフィール欄に、私はこんな自己紹介文を上げていたのだ(後にはフェイスブックのコミュニティーにも投稿した)。
「ワシントン周辺でドナーを探しています。人工授精のみ。遠方の場合は応相談。求めているのは誕生時から子供の人生に関わってくれる人、日々一緒に育てるのではなく、子づくりに協力した理由について子供に健全な説明をしてくれる人です。
私と価値観を共有し、連絡を取り合い、子供の近況に関心を持ち、誕生日パーティーに時折出てくれる一生の友人が欲しいのです。責任感のある親切な人を希望します。
私は選択的シングルマザーを目指しています。4人姉弟の一番上に生まれ、唯一の女の子でした。弟たちの面倒を見るのが大好きで、ずっと母親になりたいと思っていました。ジャーナリストとして成功をつかみましたが、私生活ではまだです。どうか夢をかなえるのに力を貸してください」
結局消防士との話は流れた。コロナ禍の中、長距離を移動することに、私がためらいを感じたのだ。私はアプリでドナー探しを再開した。
そして間もなく、法の規制を受けない精子取引が、いかがわしくも興味深い世界であることに気付いた。
この動きが始まったのは00年代初頭、クレイグズリストとヤフーの掲示板からだった。当時はドナーが掲示板に告知を出しても、たまに取引がまとまる程度。レズビアンのカップルや女性が掲示板を見つけ、ドナー募集の投稿をするのはさらにまれなことだった。匿名でのやりとりが多く、その後連絡を取り合うのは不可能だった。取引は性交渉を介する場合も、容器に入った精液を渡して終わりというケースもあった。