最新記事

海外ドラマ

2つのドラマでも真実に迫れない、「キャンディ・モンゴメリー事件」の怪

Two Types of Candy

2023年06月16日(金)16時55分
ローラ・ミラー(コラムニスト)

抑圧されてきた女性たち

『ラブ&デス』の解釈は、実際の裁判でキャンディの弁護士が成功させた弁護に沿っている。キャンディがベティを殺したのは、ベティの夫アランと不倫していたことをめぐる嫉妬からではなく、幼い頃から女らしさを強いられてきた抑圧が蓄積されていて、ベティに襲われた瞬間、制御できない怒りが爆発したという主張だ。

ドラマの中のセラピストによれば、キャンディは他人の評価を過剰に気にするように育てられてきた。一方、ベティは深刻な不安障害と産後鬱に悩んでいるが、誰も深刻に受け止めてくれない(そこにも視聴者は親近感を抱く)。

キャンディは弁護士から裁判に備えてさらに保守的な髪形にするよう指示され、ショートカットにする。迫害されてきた中流階級の女性らしく振る舞え、というわけだ。

ただし、おのを41回振り下ろす光景はあまりに凄惨だ。『ラブ&デス』は視聴者に登場人物への共感を求めながら、ブラックユーモアのような演出がドラマ全体をわざとらしくしている。

おのを握ったキャンディは狂乱状態だ。確かに、郊外に暮らす完璧なママになろうと努力する女性は、誰でも頭がおかしくなりそうだろう。しかし、キャンディの手によってもたらされたベティの悲惨な結末は、ワインを手放せない短気な母親というジョークで片付けることはできない。

キャンディを演じるエリザベス・オルセンは、自暴自棄の主婦が残忍な殺人者になることへの共感と、ブラックジョークのような描き方とのギャップを埋めようと努力している。しかし、『ラブ&デス』の底の浅い演出は、オルセンの迫真の演技をもってしても、殺人に至る過程が真に迫って見えない。

一方の『キャンディ』は、1980年にベティの自宅で起きた出来事を、当時の女性たちの苦悩の結果として描こうとはしない。

だまし絵のような異質さ

ジェシカ・ビールが演じるキャンディは、実在のキャンディが愛用していたものにそっくりなオーバーサイズの眼鏡とカーリーヘアで、どこか異質な存在に感じられる。ウサギの絵がアヒルにも見える目の錯覚のように、晴れやかな輝きとグロテスクさの間を揺れ動く。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

IT大手決算や雇用統計などに注目=今週の米株式市場

ワールド

バンクーバーで祭りの群衆に車突っ込む、複数の死傷者

ワールド

イラン、米国との核協議継続へ 外相「極めて慎重」

ワールド

プーチン氏、ウクライナと前提条件なしで交渉の用意 
あわせて読みたい

RANKING

  • 1

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 2

    タンポンに有害物質が含まれている...鉛やヒ素を研究…

  • 3

    人肉食の被害者になる寸前に脱出した少年、14年ぶり…

  • 4

    「SNSで話題の足裏パッドで毒素は除去されない」と専…

  • 5

    アメリカ日本食ブームの立役者、ロッキー青木の財産…

  • 1

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 2

    アメリカ日本食ブームの立役者、ロッキー青木の財産…

  • 3

    人肉食の被害者になる寸前に脱出した少年、14年ぶり…

  • 4

    「SNSで話題の足裏パッドで毒素は除去されない」と専…

  • 5

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    アメリカ日本食ブームの立役者、ロッキー青木の財産…

  • 2

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 3

    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…

  • 4

    人肉食の被害者になる寸前に脱出した少年、14年ぶり…

  • 5

    「SNSで話題の足裏パッドで毒素は除去されない」と専…

MAGAZINE

LATEST ISSUE

特集:独占取材 カンボジア国際詐欺

特集:独占取材 カンボジア国際詐欺

2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影