最新記事

世界のニュース50

元アスリートが「アカデミー賞」4部門受賞という、嘘のような本当の話

2023年04月28日(金)17時47分
コリン・ジョイス(本誌コラムニスト、在イギリス)

トライアスロン選手だったパターソンは大会賞金を映画化のために投じ続けた KEVIN C. COX/GETTY IMAGES FOR ITU

<高校生のときに原作を読んで感動して以来、トライアスロンで獲得した賞金を原作の版権につぎ込んで映画化。こちらも映画化されそうな実話について>

作り話はすぐにばれる。では、この話はどうだろう。

スコットランドのアスリートが、米アカデミー賞に輝いた映画の生みの親になった。彼女はトライアスロンで得た賞金を作品に投じ続けた。ライム病でなかなか試合に出られず、肩のけがを押して出場した大会もあった。

映画は昨年、ドイツで製作され、英国アカデミー賞で作品賞を含む7部門を獲得。米アカデミー賞では国際長編映画賞など4部門に輝いた。

自ら脚本も書いた元アスリートとは、レスリー・パターソン。作品はエーリヒ・マリア・レマルクによる1929年の反戦小説を下敷きにした『西部戦線異状なし』だ。

普通に言えば本作はリメーク。1930年製作の映画と、79年のテレビ映画の後だからだ。だが、過去の2作には同じ問題があった。ドイツ兵が英語で話していたのだ。パターソンは映画化権を2006年に取得、製作に16年を費やした。

本作は一様に称賛されたわけではない。一部のドイツ人批評家は原作に忠実ではないとして、この作品を嫌った。

原作は第1次大戦を戦った下級兵士の目に映った物語が基本だが、この映画には歴史や国際政治の要素が混ぜ込まれた。原作のメッセージは薄れたかもしれないが、出版からほぼ1世紀が過ぎた今、観客に新しい視点をもたらしたとも言える。

パターソン自身の物語のハイライトは15年。映画化権を更新するため、コスタリカでの大会に優勝して賞金を獲得する必要があった。ところが大会前夜に、自転車で転倒して肩を負傷。水泳では片腕(とたくさんの鎮痛剤)だけを使って泳いだ。それでも何とか彼女は勝った。

パターソンにとって最大の転機は、高校生のときに原作を読んで、愛してしまったことだ。この小説はイギリスでは必読とされるものではない。だから彼女が原作に感動しただけでなく、形を変えて次の世代に語り継ぐべきだと考えたことは奇跡とも言える。そして、彼女は夢をかなえた。

ここまで読んだ人は、みんな思うだろう。映画にうってつけのエピソードじゃないか! 問題は製作費だな......。

230502p25_P25_02.jpg

作品は米アカデミー賞4部門を獲得 JEMAL COUNTESS/GETTY IMAGES FOR FRIENDS OF SCOTLAND

社会的価値創造
「子どもの体験格差」解消を目指して──SMBCグループが推進する、従来の金融ビジネスに留まらない取り組み「シャカカチ」とは?
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米共和党の州知事、州投資機関に中国資産の早期売却命

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 サハリン

ビジネス

ECB総裁、欧州経済統合「緊急性高まる」 早期行動

ビジネス

英小売売上高、10月は前月比-0.7% 予算案発表
あわせて読みたい

RANKING

  • 1

    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…

  • 2

    【ヨルダン王室】世界がうっとり、ラジワ皇太子妃の…

  • 3

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 4

    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…

  • 5

    アジア系男性は「恋愛の序列の最下層」──リアルもオ…

  • 1

    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…

  • 2

    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…

  • 3

    キャサリン妃が「涙ぐむ姿」が話題に...今年初めて「…

  • 4

    アジア系男性は「恋愛の序列の最下層」──リアルもオ…

  • 5

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 1

    「家族は見た目も、心も冷たい」と語る、ヘンリー王…

  • 2

    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃が出産後初めて公の場へ...…

  • 4

    カミラ王妃はなぜ、いきなり泣き出したのか?...「笑…

  • 5

    キャサリン妃が「大胆な質問」に爆笑する姿が話題に.…

MAGAZINE

LATEST ISSUE

特集:超解説 トランプ2.0

特集:超解説 トランプ2.0

2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること