元トランプ選対本部長コンウェイの「信憑性の低い暴露本」超大作
The Nasty Woman
2020年の大統領選でトランプに落選を伝えたのは自分だとコンウェイは主張する。写真は投票日のホワイトハウスにて CHIP SOMODEVILLA/GETTY IMAGES
<批判はすべて「女性差別」にすりかえ、自分に都合の悪い話は全スルー。「迷言」で世間を騒がせた辣腕参謀のあきれた500ページの回顧録。どうして今、出版するのか?>
いかなる尺度から見ても、私は民主党員になるべきだった──。そんな一文で、ケリーアン・コンウェイの回想録は幕を開ける。
5月に出版された『ヒア・イズ・ザ・ディール』(「これが真相」の意。スレッシュホールド・エディションズ社刊)は、トランプ政権関係の暴露本のなかでもひときわえげつない。そして著者の過去の言動を考えれば、これほど信憑性の低い本もなさそうだ。
何しろ自分はフェミニストではないと公言してきた保守派のコンウェイが、ぬけぬけと「私はフェミニスト。男が憎い」と書く。そして実際、大勢の男に憎しみを向ける。
例外はもちろん、彼女を選挙対策本部長に抜擢したドナルド・トランプ前米大統領だ。おかげでコンウェイは大統領選候補者を当選に導いた女性初の選対本部長となり、政権の上級顧問として重用された。トランプについては「私たち働く母親に敬意を払ってくれた」とつづっている。
だが約500ページの回想録はクエンティン・タランティーノの映画も真っ青のリベンジ物。トランプの娘婿で上級顧問のジャレッド・クシュナー、首席戦略官だったスティーブ・バノン、ショーン・スパイサー報道官ら政権を彩った側近たちを、コンウェイは軽蔑もあらわに斬っていく。
自分を軽んじ、手柄を横取りした男どもに目にもの見せてやる、というわけだ。
都合の悪い話はスルー
注目すべき点は主に2つで、1つは2020年の大統領選でトランプに落選を伝えたのは自分だという主張だ。トランプは否定しているが、彼も嘘つきなので真相は謎だ。
もう1つは彼女の結婚生活だ。弁護士の夫ジョージ・コンウェイは妻の活躍を応援していたが、後に反トランプ派に転向。19年には再選阻止を掲げる政治団体リンカーン・プロジェクトを設立し、ツイッターで大統領を攻撃した。
コンウェイは夫をツイッターに奪われたと書き、「いい女でもないのに」と冗談を飛ばす。だが、寡黙だった夫が饒舌にトランプをたたき始めたときには裏切られた気がした、とも打ち明ける。
コンウェイ夫妻の対立に世間が注目したのも無理はない。トランプをめぐり全米で多くの家族が断絶するなか、その格好の例がホワイトハウスの間近で起きていたのだから。