「妊婦らしくない」とは言わせない──200年の歴史と概念を変えたリアーナ
Radical Maternity Wear
歌手のリアーナは、妊婦である自分の変わりゆく体を受け入れ、誇示し、祝福するファッションを披露した STEPHANE CARDINALEーCORBIS/GETTY IMAGES
<現在のゆったりしたマタニティウェアは、妊娠が危険と見なされ、社会から排除されたビクトリア朝時代の名残り。変わりゆく体を受け入れてポジティブに発信し、みんなで祝福していく時代に>
妊婦は体形が変わってくると、マタニティーウエアを着ようかと考える。その手の服は、お世辞にもファッショナブルとは言い難い。だが歌手のリアーナは5月13日に出産するまで、世界を揺るがすような斬新なマタニティーファッションを披露し続けた。
リアーナは今年1月に第1子の妊娠を公表。しかし、従来のマタニティーウエアにありがちなストレッチ素材のパンツや、ゆったりしたテントドレスを着ようとしなかった。
彼女が取り入れたのは、自らの変わりゆく体を受け入れ、誇示し、祝福するスタイルだ。膨らんだおなかを隠さず、逆に露出する衣装や、体のラインを強調するタイトな服で母体を引き立てた。丈の短いトップスから股上の浅いジーンズ、クリスチャン・ディオールのスケスケのカクテルドレス(写真)まで、彼女は装いの全てを妊婦であることを祝福するものに変えた。
女性のウエストラインには、常に関心が向けられる。妊娠中は特にそうだ。多くの場合、マタニティーウエアはおなかを目立たなくさせ、体を締め付けないように作られている。
妊娠は女性にとって、性的魅力のある女性から、母性を持つ品格ある女性に移りゆく時として位置付けられる。ファッションは若い女性がアイデンティティーを構築する方法だが、マタニティーウエアはたいてい創造性に欠ける。体形をカバーする単調なデザインが女性らしさや個性を奪い、機能性ばかりを重視する。
性に厳格な道徳観があった19世紀イギリスのビクトリア朝時代には、女性の体をめぐる保守的な規範がつくられた。当時の道徳的価値観では、女性は敬虔にして純粋であるべきで、従順な「家庭内天使」であることが求められた。このようなキリスト教の道徳基準の下で、妊婦のファッションは「若い奥様用」だとか「新婚の淑女のために」などと、婉曲的に表現された。
「恥じることなんてない」
性行為は女性が母親になるために「耐える」ものとされ、妊娠は子供を持つために必要な「罪」を忘れさせないものだった。妊娠は不道徳なこととされたので、妊婦向けの医学書でも「妊娠」という言葉が使われなかった。
当時は乳児死亡率や流産の可能性が非常に高く、妊娠初期は祝福の感覚よりも不安が強かった。妊娠していることが広く知られると、女性は社会活動から締め出され、家から出にくくなる恐れがあった。
だから妊婦がおなかの膨らみを隠すのは、自立を保つためだった。現在のマタニティーウエアには、19世紀保守主義のそんな名残がある。
リアーナのラディカルなマタニティーファッションは、妊娠による身体的変化を祝福する。批判派は「品がない」「裸も同然」などと言うが、彼女はめげない。
「私の体は信じられないほど素敵な状態。恥じることなんて何一つない。どうして妊娠を隠さないといけないの?」と、リアーナはヴォーグ誌に語っている。
そう、リアーナのマタニティーファッションには、素敵な要素がたくさんある。彼女は社会に残るビクトリア朝時代の古い概念を打ち砕き、妊婦だけでなく女性全体のために行動した。私たちはどんな体形であろうと、自分の体に服を着せ、それを見せて、経験することができると教えてくれたのだ。
Serena Dyer, Lecturer in History of Design and Material Culture, De Montfort University
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.