「ポップスの到達点」とまで評されるビヨンセ、今も究極の歌姫に君臨し続ける
The Key to Beyoncé’s Success
2013年スーパーボウルでは圧巻のパフォーマンスを披露 KEVIN MAZURーWIREIMAGE/GETTY IMAGES
<ビヨンセは「マイケルの正統な後継者」であり、究極のアスリート。人種もジェンダーも超えた熱狂を、40歳の今も生み出す理由とは>
まだ新型コロナウイルスの影も形もなかった2018年8月、米ニュージャージー州のメットライフスタジアムは最高に盛り上がっていた。観客は約5万人。白人よりも黒人やヒスパニックが、ストレートよりもゲイが多かった。
ステージでは汗だくのビヨンセが「マイン」「ベイビー・ボーイ」「ホールド・アップ」「カウントダウン」の4曲を続けて一気に歌い上げた。並みの歌手なら、間違いなく息が上がってしまう。
でもビヨンセは違う。会場を埋めるファンたちの覚悟も違った。事前に彼女のダンスをしっかり覚え、そっくりまねするつもりでいた。1曲につき6回、「歌って!」と命じるビヨンセの号令に従う準備もOK。感極まって涙があふれ、正直、息も切れる。ばてないのは、主役のビヨンセだけだ。
今は亡きプリンスについての刺激的なエッセーで、作家ヒルトン・アルスはこう書いていた。「男として企業社会の駆け引きに加わる」と決めたとき、プリンスはブラッククイーン(黒人LGBTQ)の支持を失った、と。
そうかもしれない。でもビヨンセは最初から企業社会の中にいた。最初から保守的で、異性愛で主流派。そして資本主義万歳。だから問題ない。みんなそれを承知でビヨンセを信じている。だから彼女の政治も偽善も関係ない。映画で稼ぎ、ファッションブランドで稼いで何が悪い?
この9月で40歳になったビヨンセは既に「生けるレガシー」の資格十分だが、まだ進化を続けている。
ミレニアル世代には、キラ星のごとく輝くポップの女王たちがたくさんいる。例えばリアーナやレディー・ガガ、ブリトニー・スピアーズ、さらにアリアナ・グランデやケイティ・ペリーがいる。もちろんマライア・キャリーやジェニファー・ロペスやマドンナもいる。
足から血が出るまで練習する
ビヨンセは彼女たちとどう違うのか。音楽ライターのジョディ・ローゼンはビヨンセを「100年以上続くポップスの必然的な到達点」と呼んだが、それはなぜか。答えは彼女のライブを見れば分かる。
巨大スタジアムを満員にするコンサートは、ローマ教皇の盛大なミサに似ている。なにしろ10万の目と耳を魅了しなければならない。その重責に耐えられず、感情的に不安定になり、平凡なパフォーマンスに終わる歌手もいる。
だがビヨンセは違う。歌姫よりもプロのアスリートに近い猛烈な鍛錬を極め、足から血が出るまで練習する。彼女は現時点で最も身体能力の高いスーパースターだ。