ホラー映画や性犯罪で「犠牲者」になる女の子の気持ちを描く「チャーチズ」新盤
Refusing to Be the “Final Girl”
ホラー映画や、世間の目にさらされることの恐怖への言及の背景にあるのは、明らかに個人的な経験だ。メイベリーはデビュー以降ほぼずっと、ネットでの嫌がらせにさらされてきた。
13年にメイベリーは英ガーディアン紙に寄稿し、有名人ゆえに、そして女性であるがゆえに、常に「レイプしてやる」という脅迫や性差別的なコメントの標的になってきたと書いた。また、15年のシングル「リーブ・ア・トレース」のミュージックビデオが公開され、同じような嫌がらせの嵐に見舞われたときもまた、メイベリーは抗議の声を上げた。
チャーチズは19年、ツイッターで以前コラボしたDJ兼音楽プロデューサーのマシュメロが、R&B歌手のクリス・ブラウンやラッパーのタイガと仕事をしたことを非難した。2人とも女性への暴力や性的虐待で物議を醸したことがある人物だ。
「(そんな連中と)仕事をすれば、そうした行為を許し、最終的には暗に支持することになる」。この後チャーチズ(特にメイベリー)は、殺害予告や性差別的な嫌がらせを受けた。
嫌がらせのひどさや精神的な負担は、たいていの人なら表舞台から姿を消したくなるレベルだ。にもかかわらず、メイベリーは逃げ出すわけにはいかないと感じたと言う。
「精神的にガタガタになったのは確か」と彼女は言う。「でも、立ち止まるわけにはいかない。前に進み続けなければと思った。パニックの発作に何度も見舞われたし、アルバム(の歌詞)に書いたような恐怖や後悔など悪夢を繰り返し見た」
『スクリーン・バイオレンス』では、時に恐ろしく時にコミカルなほど大仰なホラー映画の世界を背景に、彼女の経験がうまく料理されている。
新しい不気味系サウンド
不気味な世界観は歌詞のみならず、音でも表現される。チャーチズらしいキラキラしたシンセポップに、ゴシックロックやポストロックの暗い陰影が加わり、新たなサウンドが生まれている。
例えば「ファイナル・ガール」では、ホラー映画の音響効果を思わせる気味の悪いシンセの和音と不吉なギターの音に乗せ、メイベリーが「娘が死体袋の中にいるのを見つけるなんて嫌だよね」と歌う。
まとまりも没入感もある一方で多様な顔を持つアルバムであり、陰々滅々とした要素ばかりではない。だから、ネットいじめについてのアルバムだと片付けられるのは嫌だとメイベリーは言う。
「恐怖と失望と幻滅についてのアルバムだけれど、後悔を含めあらゆる要素が詰まってもいる。何かと折り合いをつけようと努めることや、不屈の精神、希望、現実逃避についてのアルバムだ」
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