英語を学ぶなら「話し言葉」でなく「書き言葉」を勧める理由
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<「話し言葉」はTPOをわきまえないで使うと相手を不愉快にさせたり誤解を与えてしまうことがあります。一方、「書き言葉」は正確に伝えることを目的としているので、誰にとっても分かりやすく、簡潔で、意思疎通しやすい言葉なのです。日本人に向いている「書き言葉」の学習法をお教えしましょう>
世界中の主要な言語には「話し言葉」と「書き言葉」があります。「話し言葉」は日常会話のことで、主に対面での会話において使う言葉です。
「話し言葉」は「方言」「若者言葉」「女性語・男性語」「敬語」のようにバリエーションが多様で、地域、性別、年齢、グループによって言葉が変わることがあります。また言葉を省略したり、語順が乱れるなど、文法的に不完全な表現になりやすく、相手に正しい意図が伝わらないことも多くあります。
「書き言葉」というのは文章語のことで、文字を読んだり、文章で表現する時に使う言葉です。「書き言葉」には事実や意図を正確に伝える目的がありますから、誰が読んでも理解できるように「標準的な文法」に則った完全センテンスであることが原則です。「書き言葉」は地域性やグループ性を排除した標準的な言葉であり、その言語を話す人であれば誰でも理解することができます。
江戸時代、日本語の共通語は「書き言葉」だった
今は日本全国で日本語が通じますが、江戸時代の日本語は多様性に満ちていました。一歩村の外に出るだけで、言葉が通じないことが普通だったのです。江戸時代後期、1811年に刊行された式亭三馬の『狂言田舎操』には「江戸から20町(約2km)離れるともう言葉が違ってしまい、まして1里(約4km)も離れたら、まるで江戸とは違う言葉になってしまう」と書かれています。
少し離れるだけで言葉が違うのですから、遠く離れた土地の人の言葉が分からないのは当然で、対面といえども口頭でコミュニケーションを成立させるのが難しかったのです。そのため江戸時代の人たちは異郷の人と意思疎通する時、共通言語である「書き言葉」を活用していたと考えられています。
司馬遼太郎さんは著書の中で、江戸時代は武士の素養であった「謡曲」が共通言語として使われていたと書いています。文語調である謡曲の言葉を、謡曲の節回しに乗せて話すと、誰とでも意思疎通ができたというのです。この真偽について今では知ることができませんが、「書き言葉」が「話し言葉」の通じなさを補っていたと考えるのは自然だと思います。