学生が大学を訴える──質落ちたオンライン授業に「学費返せ」
Failing Grade
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<コロナ禍で貴重なキャンパスライフを奪われた学生が大学を訴える集団訴訟が止まらない>
全米で60、ひょっとすると100を超える大学が、学生から訴えられている。今春、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を受けてキャンパスが閉鎖され、大学での対面授業がオンライン授業に移行。学生たちはだまされた気分を味わい、前払いした学費と実際に受けた授業やサービスの差額分の返金を要求している。
集団訴訟が始まったのは4月。当初はごくわずかだったが、5~6月と勢いを増して前例のない数に膨れ上がり、専門家によればさらに増えそうだ。現在学生から訴えられている大学には、ブラウン大学、コロンビア大学、デューク大学、エモリー大学、ジョージタウン大学といった名門校や、ニュージャージー州のラトガーズ大学、ノースカロライナ大学(UNC)など主要な公立校も含まれている。
ブレイディ・アレンはUNCシャーロット校に対する集団訴訟の原告代表だ。彼を含めてUNCの24万人近い学生が、新型コロナの感染拡大を抑えるためリモート学習に移行した。「周囲の学生と永続的な関係が築けることも対面授業の価値の一部だ」と、アレンは言う。「オンラインへの移行で、ほかの学生や教職員とのつながりを失った」
アレンによれば、指導そのものの質も落ちた。例えばビジネス専攻の締めくくりとなる上級レべルの戦略経営論では、教授はバーチャルで講義する代わりに、メモとパワーポイントのプレゼンテーションをオンラインにアップロードしただけ。「その教授のオンライン講義はそれっきり。もっと何回も講義を受けられると思っていたのに価値が下がり過ぎだと思う。なのに授業料は変わらなかった」
アレンの代理人を務めるサウスカロライナ州チャールストンのアナストプロ法律事務所は、専用サイトを開設し、オンライン授業に不満を持つ大学生を募っている。ロイ・ウィリー主席弁護士は個々の学生に代わり、マイアミ大学、ボストン大学、ドレクセル大学、17の系列校から成るUNCシステムなど全米の大学に対して、これまでに30件以上の訴訟を起こしている。
「これらの訴訟を学生に対する公正さの観点から見ている」と、ウィリーは言う。「学生とその家族は各種サービス、体験教育のために学費を前払いしているのに、大学側はそうしたサービスやアクセス、体験を提供していない」
「不可抗力」との主張も
一方、西海岸の都市シアトルで消費者問題を扱うハーゲンス・バーマン法律事務所にも、さまざまな大学の学生から学費返還について相談の電話が連日のようにかかってくる。同事務所のスティーブ・バーマン業務執行担当パートナーは学生たちに代わり、デューク、エモリー、ジョージタウン、ラトガーズ、南カリフォルニア、バンダービルトなど十数校の大学を訴えた。
これらの弁護士が学生たちに代わってする主張は同じだ。すなわち、被告は対面授業をオンライン授業で代用することにより、原告が明らかに要求していて代価も支払った本物の大学生活を奪った、というものだ。
「学生たちはパワーポイントのスライドを見たり、中止された授業やオンライン補講に学費ローンを浪費したりするために入学したのではない」と、バーマンは言う。
だが、高等教育の専門家でバンダービルト大学の元統括弁護士のオードリー・アンダーソンは、原告側は契約違反を立証できないと考えている。
「大学と学生が契約書、すなわち一定水準の直接指導を約束する文書を取り交わすのを見たためしがない」と、アンダーソンは言う。「明白な約束が破られたと証明するのは難しいだろう。学生たちは払った学費で教育を受けて単位をもらっている」
それでも、バーマンは強気だ。「親は、子供が直接授業を受けて文献を読むなどし、大学側が見返りに何を提供するかを説明した合意書に署名している。どれも暗黙、もしくは明白な契約だと思う」
元教育省次官で現在はノースカロライナ州で教育問題を扱うジョナサン・ボーゲル弁護士も、学生と大学間の契約という概念を裏付ける証拠は十分あると考えており、被告側は不可抗力を主張するほうが得策だと指摘する。
「抗弁において不可抗力とは実施不可能という意味だ。想定外の天災や『神の御業』によって契約遂行が困難になった場合を指す」と、ボーゲルは言う。「大学を閉鎖したのは神ではなく知事だったが」