クルアンビンの摩訶不思議な魅力
To Sound Like The World
歌詞は3人の共同作業
アルバムの制作が行われたのは、テキサス州バートンの農場だという。「今回のアルバムがこれまでと大きく違うのは、べースとギター、ドラムの録音を農場の納屋でしたことだ」と、リーは言う。「そして3カ月後に再び集まって、ボーカルや他の楽器の音を追加した」
最終的な仕上げまでに時間があったから、リーは歌詞を書くことができた。ただ、最初からボーカルを加えるつもりだったわけではない。「べースとギターとドラムを軸にあれこれ付け加えて、しっくりきたものを追加しようと思った。それでボーカルを入れてみたら、いい感じだった」
歌詞は当初、リーがノートに書き付けていた思い出をべースにしていたが、すぐに3人の共同作業に変わった。
「それぞれの曲を聴きながら、ノートをめくって、ぴったりの単語やフレーズに印を付けておいた。それをマーク(スピア)とDJ(ジョンソン) に見せて、3人で歌詞を書き始めた」と、リーは言う。
ボーカルは3人で担当するから、それぞれの視点に合った歌詞にする必要があった。私の個人的なラブソングだったら、マークが歌うことができない。全員になじむ歌詞にする必要がある。私たち3人に染みる表現なら、どんな聴き手も共鳴できるだろう」
音楽的には、『モルデカイ』は典型的なクルアンビン・ワールドだ。アルバム2曲目の「タイム(ユー・アンド・アイ)」は80年代前半のディスコ音楽調で、リーの父親にインスピレーションを得たという「ディアレスト・アルフレッド」は、60年代のR&Bを思わせる曲だ。ほとんど歌詞がない「シダ」と「ワン・トゥ・リメンバー」は、ダブのリズムにスピアの渋いギターの音が光る。
「コネセ・ド・ファス」は、セルジュ・ゲンズブールへのオマージュとも言える遊び心あふれる1曲だ。フランス語のコーラスをバックに、かすれ声の2人の男女の会話がかぶさる。「映画俳優になったつもりで録音した」と、リーは振り返る。「タバコを吸うふりをして雰囲気を出した」
リズミカルで陽気な「ソー・ウィ・ウォント・フォゲット」は、リーがアルバムで一番気に入っている曲だ。「どこか懐かしい響きがあるから」と言う。
コロナを成長の機会に
「私は子供の時、『ネバーエンディング・ストーリー第2章』という映画が大好きだった。その中で、登場人物は願い事がかなうたびに、思い出を忘れていく。そしてついに最後の思い出を失うことになる。それが子供心にとても悲しかった」
「だから『私たちは忘れない』という意味の曲を作った。思い出を忘れないでいる一番いい方法はなんだろうと考えたとき、書き残すことだと思い至った。書いておいたり、誰かにその話をしたりしないと、だんだん思い出は忘れていってしまう」