トランプも敵わない、Kポップファンの知られざるパワー
K-Pop Has Always Been Political
ただし、韓国政府は今も韓流を推進する努力をやめていない。外国市場での成功を後押しするために、「各国の社会経済的、政治的、文化的要因」を制作者たちに助言することも多いと、韓国系アメリカ人ユニ・ホンは著書『韓国クールの誕生』で指摘している。アラブ諸国で韓流ドラマを放送するときは、イスラム教の祈りの時間を考慮すること、といったマニュアルまで存在するという。
韓国にとって、韓流は軍事力ではなく、魅力的な文化やイデオロギーによって世界に影響を与えるソフトパワーだ。それはサムスンなどのハイテク企業の活躍と相まって、「韓国といえばダイナミックで未来的な国」というイメージづくりにも貢献してきた。
多様化するファンべース
時には韓流が、あからさまに政治利用される場合もある。朝鮮半島情勢が緊張すると、韓国政府は軍事境界線付近に巨大スピーカーを設置して、北朝鮮に向けてKポップを流すという。
もっとも、Kポップの成功に誰よりも貢献してきたのは政府ではなく、途方もなく巨大で強力なファンだ。「Kポップの中核的なマーケティング戦略の1つは、参加型のファンカルチャーをつくることだ。その戦略はプロデューサーたちの夢を超える成功を収めてきた」と、カリフォルニア大学バークレー校のジョン・リー教授は指摘する。
Kポップファンのパワーが最大限に発揮されるのは、お気に入りのアーティストの新譜が発表されるときだ。各国のチャートで初登場1位を獲得できるように、世界中のファンが一斉に注文を入れる。
ファンの組織力が、誰かにプレッシャーをかけるために使われることもある。大好きなアーティストがもっと人間的な扱いを受けられるように、アーティストの事務所に圧力をかけることもある。
こうしたKポップファンは、世界中に大量に存在する。当初、アメリカでKポップ人気に火を付けたのは、アジア系のティーンだったかもしれない。だが今は、白人はもちろん黒人やヒスパニック系も大勢含む多文化的なファンべースが出来上がっている。
パキスタン人ジャーナリストのファティマ・ブットは近著『世界の新たなキング』で、Kポップやインドのボリウッド映画が世界で支持されているのは、ポップカルチャーにおいてアメリカの圧倒的存在感が薄れ、グローバルなシフトが起きている証拠だと指摘する。
「世界がグローバル化による緊張と、ネオリべラリズムによる調整と、情報伝達の猛烈なスピード、そして都市化の混乱にもがくなか、アメリカのポップカルチャーは新しい不透明な現実をますます反映しなくなっている」
20世紀には、自由と個性と今っぽさの象徴だったアメリカのロックとポップ音楽が、権威主義的な国の若者にも受け入れられた。韓国もそうした国の1つだった。
徹底的にポジティブで、猛烈な結束力を誇り、参加型のファンカルチャーを持つKポップのファン。彼らがアメリカ社会の人種差別と不正義に異議を唱えるようになったのは、自然な流れだったのかもしれない。
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[2020年7月21日号掲載]