「ゴリラに別れを惜しむ言葉を掛けましょう」 コロナが脅かすゴリラ観光
Gorilla Tourism at Risk
ゴリラ観光に支えられた村の経済はコロナ禍によって揺らいでいる COURTESY OF VOLCANOES SAFARIS
<ウガンダやルワンダではゴリラの保護活動費と地元住民の貴重な収入源がパンデミックで失われている>
ブホマのメインストリートは、撮影に使われなくなったまま放置された西部劇のセットを思わせる。未舗装の道沿いに、コンクリートとレンガと金属をかき集めて造られた大道具さながらの粗末な建物が並ぶ。
このウガンダの村の通りを抜けると、世界のマウンテンゴリラの約半数がすむブウィンディ原生国立公園に至る。
私は通り沿いのカフェ「ブウィンディ・バー」のポーチでプラスチックの椅子に腰掛け、よく冷えたナイルビールを飲んでいた。20世紀アメリカの小説家アーネスト・ヘミングウェイが東アフリカ紀行でブホマを訪れていたら、この店の常連になっていたに違いない。料理はこの辺りで一番おいしいし、マンゴーダイキリも絶品だ。
ブウィンディ・バーは、非営利団体「ボルケーノズ・サファリズ・パートナーシップ・トラスト(VSPT)」がこの地域で行っているコミュニティー支援事業の1つ。地元の子供たちが接客業の経験を積む機会を提供している。
VSPTの設立母体であるボルケーノズ・サファリズ社は、ウガンダと隣国のルワンダでゴリラ・ツーリズムを行うために1997年に設立された。現在では事業を拡大し、4つの高級宿泊施設を展開している。同社は予約1件ごとに100ドルを、ブウィンディ・バーのようなコミュニティー支援事業に提供している。
感染症がゴリラを脅かす
しかし3月に新型コロナウイルスの感染が広がり始めると、ウガンダとルワンダの政府は観光客の受け入れを停止した。国立公園や宿泊施設は閉鎖された。
「ゴリラやチンパンジーの見学を中心とする観光業は、国立公園や野生生物保護団体、地元の人々の収入源になっている。観光が止まれば、こうした全てが危うくなる」と、ボルケーノズ・サファリズの創業者であるブラビーン・モマンは言う。
アフリカにとって観光は極めて重要な産業だが、観光を止めることは感染症対策の柱でもある。アフリカではこれまでも、ほかのコロナウイルスの感染が広がったり、エボラ出血熱や疥癬によりゴリラの命が失われたりしてきた。
いま地球上に存在するゴリラの数は、およそ人間900万人に対して1頭の割合にすぎない。ゴリラを保護する上で大きな課題は病気を防ぐことだ。ゴリラはとりわけ結核などの呼吸器疾患に弱い。
「人間とマウンテンゴリラやチンパンジーは、遺伝子の98%以上が共通している。そのため、互いに病気を感染させやすい」と、獣医師のグラディス・カレマジクソカは言う。90年代後半に、ウガンダ野生動物局(UWA)でインフルエンザがゴリラに及ぼす脅威に対処した人物だ。