「ゴリラに別れを惜しむ言葉を掛けましょう」 コロナが脅かすゴリラ観光
Gorilla Tourism at Risk
観光業のリスクと可能性
著名な野生生物保護活動家の故ダイアン・フォッシーがルワンダのビルンガ山地に研究センターを設けたのは67年のこと。当時、研究センターの施設は2つの小さなテントだけだった。
その後、保護の取り組みが実を結び、ゴリラの頭数はだいぶ増えた。マウンテンゴリラは「絶滅危惧種レッドリスト」で「深刻な危機」(絶滅の一歩手前)と位置付けられていたが、2018年にそれより深刻度が低い「危機」に指定変更された。
この点は重要な前進と言うべきだろう。しかしマウンテンゴリラが保護なしで生き延びられないことは、今後も変わらない。
「観光業がもたらす最大のリスクは病気の感染を広げることだが、観光業は野生生物保護のための重要な資金源でもある」と語るのは、フォッシーの遺志を継ぐ世界最大のゴリラ保護団体「ダイアン・フォッシー国際ゴリラ基金」の タラ・ストインスキーCEO兼最高科学責任者だ。
UWAの職員の9割は地元の住民だ。幸いにも国立公園で働いている職員は、観光が中止されている間も給料が支払われている。
しかし、宿泊施設の従業員はそうはいかない。観光客向けの土産物を作って売っている人たちや、観光客の荷物運びをして受け取るチップで生計を立てている住民はどうなるのか。
そもそも、全ての人が観光業の恩恵にあずかってきたわけではない。カレマジクソカが3年前、コーヒーを公正な価格で販売できるよう地元農民を支援する団体「ゴリラ保護コーヒー」の立ち上げを決意したのも、それが理由だ。
「ウガンダはコーヒー生産国であり、観光客はウガンダ産のコーヒーを飲みたがっている。ならば地元コミュニティーが密猟に手を染めないことを条件に、生産者が世界的なコーヒーブランドを作って高い価格で販売できるよう手を貸せばいい」とカレマジクソカは言う。コロナ禍でも貨物機の往来は絶たれていないから、生産者支援は続いている。
カレマジクソカが運営する人間とゴリラ相互の病気の感染防止を目的とした非政府組織では、コロナ問題を機にゴリラ観察トレッキングツアーや国立公園スタッフのためのガイドラインの見直しを行った。今後は手指の消毒と検温をしてからでないとトレッキングに参加できなくなり、マスクの着用も義務化される。
観察中、ゴリラとの間に少なくとも7メートルの距離を置くことも求められる。「自分たちの国で起きていることを受けてソーシャルディスタンス(社会的距離)の意義が理解され、ルールを守ることへの抵抗感はずいぶん減ったはずだ」と、カレマジクソカは言う。以前なら、トレッキング客の半数以上が社会的距離を守らなかった。