最新記事

観光

「ゴリラに別れを惜しむ言葉を掛けましょう」 コロナが脅かすゴリラ観光

Gorilla Tourism at Risk

2020年06月23日(火)16時30分
レーン・ニーセット

観光業のリスクと可能性

著名な野生生物保護活動家の故ダイアン・フォッシーがルワンダのビルンガ山地に研究センターを設けたのは67年のこと。当時、研究センターの施設は2つの小さなテントだけだった。

その後、保護の取り組みが実を結び、ゴリラの頭数はだいぶ増えた。マウンテンゴリラは「絶滅危惧種レッドリスト」で「深刻な危機」(絶滅の一歩手前)と位置付けられていたが、2018年にそれより深刻度が低い「危機」に指定変更された。

この点は重要な前進と言うべきだろう。しかしマウンテンゴリラが保護なしで生き延びられないことは、今後も変わらない。

「観光業がもたらす最大のリスクは病気の感染を広げることだが、観光業は野生生物保護のための重要な資金源でもある」と語るのは、フォッシーの遺志を継ぐ世界最大のゴリラ保護団体「ダイアン・フォッシー国際ゴリラ基金」の タラ・ストインスキーCEO兼最高科学責任者だ。

UWAの職員の9割は地元の住民だ。幸いにも国立公園で働いている職員は、観光が中止されている間も給料が支払われている。

NW_GRI_03.jpg

ブウィンディ・バーは地域の子供達が接客業の計けえんを積む機会も与えてきたた COURTESY OF VOLCANOES SAFARIS

しかし、宿泊施設の従業員はそうはいかない。観光客向けの土産物を作って売っている人たちや、観光客の荷物運びをして受け取るチップで生計を立てている住民はどうなるのか。

そもそも、全ての人が観光業の恩恵にあずかってきたわけではない。カレマジクソカが3年前、コーヒーを公正な価格で販売できるよう地元農民を支援する団体「ゴリラ保護コーヒー」の立ち上げを決意したのも、それが理由だ。

「ウガンダはコーヒー生産国であり、観光客はウガンダ産のコーヒーを飲みたがっている。ならば地元コミュニティーが密猟に手を染めないことを条件に、生産者が世界的なコーヒーブランドを作って高い価格で販売できるよう手を貸せばいい」とカレマジクソカは言う。コロナ禍でも貨物機の往来は絶たれていないから、生産者支援は続いている。

カレマジクソカが運営する人間とゴリラ相互の病気の感染防止を目的とした非政府組織では、コロナ問題を機にゴリラ観察トレッキングツアーや国立公園スタッフのためのガイドラインの見直しを行った。今後は手指の消毒と検温をしてからでないとトレッキングに参加できなくなり、マスクの着用も義務化される。

観察中、ゴリラとの間に少なくとも7メートルの距離を置くことも求められる。「自分たちの国で起きていることを受けてソーシャルディスタンス(社会的距離)の意義が理解され、ルールを守ることへの抵抗感はずいぶん減ったはずだ」と、カレマジクソカは言う。以前なら、トレッキング客の半数以上が社会的距離を守らなかった。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

独メルセデス、安価モデルの米市場撤退検討との報道を

ワールド

タイ、米関税で最大80億ドルの損失も=政府高官

ビジネス

午前の東京株式市場は小幅続伸、トランプ関税警戒し不

ワールド

ウィスコンシン州判事選、リベラル派が勝利 トランプ
あわせて読みたい

RANKING

  • 1

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 2

    人肉食の被害者になる寸前に脱出した少年、14年ぶり…

  • 3

    2つのドラマでも真実に迫れない、「キャンディ・モン…

  • 4

    「SNSで話題の足裏パッドで毒素は除去されない」と専…

  • 5

    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…

  • 1

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 2

    人肉食の被害者になる寸前に脱出した少年、14年ぶり…

  • 3

    「SNSで話題の足裏パッドで毒素は除去されない」と専…

  • 4

    アメリカ日本食ブームの立役者、ロッキー青木の財産…

  • 5

    2つのドラマでも真実に迫れない、「キャンディ・モン…

  • 1

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 2

    レザーパンツで「女性特有の感染症リスク」が増加...…

  • 3

    「日本のハイジ」を通しスイスという国が受容されて…

  • 4

    人肉食の被害者になる寸前に脱出した少年、14年ぶり…

  • 5

    「なぜ隠さなければならないのか?」...リリー=ロー…

MAGAZINE

LATEST ISSUE

特集:引きこもるアメリカ

特集:引きこもるアメリカ

2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?