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ギター人気復活を導く「スーパークール」な和製ギター

Made in Japan

2020年05月28日(木)21時10分
マルコム・ビース(ジャーナリスト)

70年代まで、日本製のギターはもっぱらギブソンやフェンダーの模倣品の域を出なかった。アメリカで訴訟沙汰になることも少なからずあった。しかしフェンダーが日本に進出した頃には、日本のメーカーの技術は飛躍的に進化し、アメリカ人をうならせる域にまで達していた。

82年のフェンダー・ジャパンの設立に当たって、フェンダー本社は日本の富士弦楽器製造(現フジゲン)や神田商会と手を組んだ。富士弦楽器製造は長らくフェンダーのコピー製品を作っていた会社だ。それがオリジナルのお墨付きを得て、ついに「本物」と認められた格好だ。以後、日本製フェンダーは「メイド・イン・ジャパン」モデルと呼ばれることになった。

フェンダーは日本の技術力を「大歓迎した」と、同社でアジア市場を統括するエドワード・コールは言う。「当社の名に恥じない真のフェンダーを日本のメーカーは作っていた」。そして他のアメリカ勢も、追い掛けるように日本に製造拠点を設けた。

その頃には日本の消費者の目も肥えてきて、国産ギターのすごさを正当に評価できるようになっていた。

フェンダーのコールはかつてルイ・ヴィトンやラルフローレンにいた人物でファッション業界にも通じているが、「日本の小売市場は世界で最も洗練されている」と太鼓判を押す。「消費者は商品知識が豊富で、気に入ったものを選び、極めていく」

そんな賢い消費者を導くのが、世界に羽ばたく日本人の「ギターの神様」だ。コールによると、横山健やチバユウスケはコンサートに最大10万人のファンを動員できる。その多くが、きっと新たにギターを買ってくれる。

次なる拠点は中国か

横山とチバは、02年にフェンダー傘下に入ったグレッチのギターを弾く。主要メーカーの中でもフェンダーは創業期からアーティストを大切にしてきたし、彼らが果たす役割も承知している。1946年に同社を設立したレオ・フェンダーはギタリストを「天使」に例え、自分の仕事は「彼らに翼を与える」ことだと言い切っていた。

日本の消費者は今やアジアのモデルだ。日本は中国、タイなどの東南アジア諸国に影響を与えていると、コールは言う。「日本は重要な意味を持つ。多くの国の人が日本を参照して自分たちのトレンドに取り込んでいる」

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グレッチのシグネ チャーモデルを弾く横山健 COURTESY OF FMIC

こうしてアジアでは、日本製のフェンダーがアメリカ製フェンダーと同じように人気になりつつあるとコールは言う。「ブランドとして、日本製はスーパークールだ」

中国の消費者も日本製になびく。アリババなどの通販サイトがコピー商品を締め出していることもあって、中国の消費者も真に良質なギターを選ぶようになったからだ。

フェンダーのムーニーによると、同社は中国にもギター工場を構え、長期的な成長を狙っている。中国政府も貴州省正安県に広大なギター製造産業団地を建設し、経済開発プロジェクトの一環として取り組んでいる。

おそらく、今後10年は日本の消費者をモデルとして中国の小売市場が成長する。それに続くのはインドやインドネシアだろうが、ムーニーに言わせると、そこでは地上の店舗よりも最初からオンライン通販が主流になりそうだ。

ただし、日本を過大評価するなという声もある。ミュージック・トレーズのマジェスキは日本製ギターのインパクトを認めつつも、シェアにはつながらないとみる。「日本製ギターがグローバル市場に占める割合は1桁台にすぎない」とマジェスキ。「ノスタルジックで、素敵なギターなのは確かだが、市場として重要ではない」

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