最新記事

ファッション

苦労人シャネルと生まれながらの貴族のライバル、そして戦争

Chanel and Schiaparelli: Rivalry on the Riviera

2020年03月02日(月)18時30分
ニューズウィーク日本版編集部

さらに彼女は、ツイードのジャケットやシンプルなセーターにアクセントとしてジュエリーをあしらうスタイルを打ち出した。1921年には「シャネルの5番」という名の香水を発売し、莫大な富を築いた。

NW_CCS_06.jpg

シャネルの5番 FOTIADESーCONDE NAST/GETTY IMAGES

そこへ現れたのが、シャネルの唯一の本格的ライバルであるエルザ・スキャパレリだ。 彼女ほどシャネルと懸け離れた人物はいなかった。スキャパレリはナポリの貴族で、イタリアの宮殿で生まれ、父親は一流の学者だった。

裁縫はできず、自分を婦人服の作り手ではなく、芸術家と見なしていた。最初の、そしてたちまち成功をもたらしたデザインは、首元にボウタイの模様を編み込んだトロンプルイユ(だまし絵)技法のセーターだった。

NW_CCS_03.jpg

スキャバレリのデザイン画 ILLUSTRATION BY RENE BOUET-WILLAUMEZー CONDE NAST/GETTY IMAGES

1930年代前半のスキャパレリは従業員2000人を雇い、70種類の新作を年に2回発表するまでになっていた。ラップドレスや黒のスーツなど、どれも裕福で保守的な顧客が着やすい服だった。

一方ではジッパーが目立つドレスや、ジャケット付きのイブニングドレスなどで、独創的な顧客を驚かせてもいた。やがてスキャパレリの独特な華やかさは、シャネルの控えめなエレガンスと対比されることになる。

NW_CCS_04.jpg

スキャバレリ、51年発表のドレス JOHN RAWLINGSーCONDE NAST/GETTY IMAGES

一方、貧しい少女時代を過ごしたシャネルは頂点を目指し、男を次々と乗り換えながら着実に成功への階段を上っていた。過去の劣等感を克服し、裕福な顧客とも対等に付き合えるようになった。

11歳で母親を失い、続けて父親が失踪し、フランスの片田舎の修道院に放り込まれるという過酷な境遇にも屈しなかった。そこで裁縫を習い、無限のエネルギーと生き残る決意、誰の圧力にも屈しない意思の力で生き延びた。

嫌み交じりの社交辞令

破竹の勢いで成功を遂げたシャネルだが、私生活では悲劇にも見舞われた。結婚を噂された恋人で仕事の協力者でもあったイラストレーターのポール・イリーブが突然、この世を去ったのだ。

これは大きな痛手だった。そして35年の秋にリビエラからパリに戻ったとき、シャネルはスキャパレリが単なる脅威以上の存在になっていることを知る。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに

ワールド

米共和党の州知事、州投資機関に中国資産の早期売却命

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 サハリン

ビジネス

ECB総裁、欧州経済統合「緊急性高まる」 早期行動
あわせて読みたい

RANKING

  • 1

    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…

  • 2

    【ヨルダン王室】世界がうっとり、ラジワ皇太子妃の…

  • 3

    アジア系男性は「恋愛の序列の最下層」──リアルもオ…

  • 4

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 5

    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…

  • 1

    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…

  • 2

    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…

  • 3

    キャサリン妃が「涙ぐむ姿」が話題に...今年初めて「…

  • 4

    アジア系男性は「恋愛の序列の最下層」──リアルもオ…

  • 5

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 1

    「家族は見た目も、心も冷たい」と語る、ヘンリー王…

  • 2

    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃が出産後初めて公の場へ...…

  • 4

    カミラ王妃はなぜ、いきなり泣き出したのか?...「笑…

  • 5

    キャサリン妃が「大胆な質問」に爆笑する姿が話題に.…

MAGAZINE

LATEST ISSUE

特集:超解説 トランプ2.0

特集:超解説 トランプ2.0

2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること