バレンタインデー用のバラの花に隠された、甘くない現実
ボイトラー氏によると、2月だけで、毎年1億本以上のバラがドイツに輸入されている。そのほとんどはケニア産で、ナイバシャ湖周辺に巨大バラ農場がある。農場の持ち主はオランダやドイツの企業で、労働者は低賃金を強いられているケニアの人たちだ。この時期、ルフトハンザドイツ航空が、バラ輸送のために特別に路線を組んでいる。大量の湖の水を栽培に使い、農薬で汚染した排水は湖に戻される。フェアトレード(注:フェアトレード農産物は、有機農産物ではないものもあるが)のバラも、ナイバシャ湖の水に頼っている。
ボイトラー氏は、バラがフェアトレードであるかどうかは関係なく、私たちは特定の場所の、そして世界の環境破壊に手を貸している、バレンタインデーに、バラ栽培の労働者や環境問題について考えてみるべきなのではと結論する。
また、輸入されたバラには、発がん性およびホルモン活性のある農薬が含まれているかもしれない。2012年のことだが、ドイツの代表的な環境保護団体のドイツ環境自然保護連盟(BUND)は、スーパーや花屋10軒から集めたバラの花束10束(ほとんどがアフリカ産)を検査し、8束からその農薬が検出されたと公表した。購入者の身体への影響もあり得るし、何よりも労働者たちが危険な状況にいるということだと、BUNDは指摘した。
なお、ナイバシャ湖では、バラ栽培の労働者による湖での魚の密漁、それを取り締まった環境保護活動家の死という問題も起きている(参照:ドキュメンタリー「血塗られたアフリカのバラ」NHKほか国際共同制作)
日本では、男性が女性に花を贈る「フラワーバレンタイン」の活動が始まって、今年で10年だという。「フラワーバレンタイン」で売られる花には、どんな背景があるのだろうか。
筆者は、バレンタインデーに花束をプレゼントしてくれていた夫に、花はもういらないと随分前に伝えた。花を贈ってもらったら、やはり嬉しい。しかし、バレンタインデーに再び花束を受け取る気にはなれない。
[執筆者]
岩澤里美
スイス在住ジャーナリスト。上智大学で修士号取得(教育学)後、教育・心理系雑誌の編集に携わる。イギリスの大学院博士課程留学を経て2001年よりチューリヒ(ドイツ語圏)へ。共同通信の通信員として従事したのち、フリーランスで執筆を開始。スイスを中心にヨーロッパ各地での取材も続けている。得意分野は社会現象、ユニークな新ビジネス、文化で、執筆多数。数々のニュース系サイトほか、JAL国際線ファーストクラス機内誌『AGORA』、季刊『環境ビジネス』など雑誌にも寄稿。東京都認定のNPO 法人「在外ジャーナリスト協会(Global Press)」理事として、世界に住む日本人フリーランスジャーナリスト・ライターを支援している。www.satomi-iwasawa.com
2020年2月18日号(2月12日発売)は「新型肺炎:どこまで広がるのか」特集。「起きるべくして起きた」被害拡大を防ぐための「処方箋」は? 悲劇を繰り返す中国共産党、厳戒態勢下にある北京の現状、漢方・ワクチンという「対策」......総力レポート。