「100年後には肉食は廃れているかもしれない」それでも、肉はおいしい...
Did Meat Make Us Human?
写真はイメージ Valeria Blanc-iStock
<つい肉を食べてしまうのは本当に進化のせいなのか? 歴史と社会からひもとく人類と肉食の深遠な関係>
食用肉の生産が、当の動物ばかりか地球の気候や環境にも悪いのはみんな知っている。それでも肉はおいしい。本当はやめるべきなのにやめられないというジレンマが、リべラルな肉食派を苦しめる。
一方、人類は肉を食べて進化したという説を公然と支持する右寄りの肉食派も多い。記者会見でハンバーガーを食べながら、自然エネルギーや温暖化対策への公共投資を批判する共和党議員や、人工肉バーガーは世界の社会主義国化を狙うユダヤ人の陰謀だと主張するネオナチなどだ。
最近は肉しか食べずに健康になる「ライオンダイエット」まで登場。人間が物連鎖の頂点に立つことは生物学的に決まっていると認め、うまく活用しようというわけだ。
だが肉食が人間に「ふさわしい」という証拠は乏しいと、歴史家で社会学者のジョッシュ・バーソンは新著『肉問題──動物、人間、および食物の深遠な歴史(The Meat Question: Animals, Humans,and the Deep History of Food)』で指摘する。
本書は通説の2つに異を唱える。1つは、狩猟と(特に大型動物の)肉を食べる習慣が「私たちを人間にした」という前提。もう1つは、世界中どこでも人間は肉が大好きで、中国やインどなど新興国では経済的に豊かになるほど肉を食べたがる──つまり肉食は人間の宿命という考えだ。だがバーソンは、このどちらも正しくないと述べる。実は人間はかつては極端に幅広く何でも食べており、いつまたその状態に戻ってもおかしくないというのだ。
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人類の進化の過程で肉食が普及し、重要な役割を果たしたという主張を証明するための考古学的証拠は、量的にも質的にも不十分だ。例えばネアンデルタール人が何を食べていたか知るには、骨のコラーゲンなどから窒素同位体比を測定する必要がある。
ドイツのシェーニンゲン遺跡からは旧石器時代中期の動物の骨や化石が見つかっている。人間が当時大型動物を殺していた証拠として説得力がありそうだが、バーソンによれば1カ所だけでは全体図はつかめない。例えば小型動物の骨は朽ち果て、実際にはもっと多かった可能性がある。
一方、窒素同位体比を調べた結果、ネアンデルタール人はタンパク質を摂取するため植物も大量に食べていたことが分かった。歯や道具に付着していた植物の化石から、「時期や場所によっては肉はほとんど食べなかった」可能性もあるという。