最新記事

教育

「ダメ、ダメ」言い過ぎる母親を生む日本社会で、自己肯定感の低い子にしない最高の方法

2019年11月26日(火)16時45分
船津徹

連帯責任という強迫観念

江戸時代、日本の人口の約7%と言われた武士は「すべてはお家のため」と、主君に忠誠する態度、個をおさえこみ全体を活かす思想を持つことが理想とされていました。「まじめで従順であること」が最良の生き方という価値観があったわけです。

この価値観の裏に仕掛けられていたものが「連帯責任」という強迫観念です。一人の不始末が全体の責任となり、最悪の場合「お家とりつぶし」になるという恐怖を武士は抱えていたのです。

連帯責任は武士だけのものではありません。江戸時代の町村は「五人組」という制度によって管理されていました。これは近隣5戸を一組とし、互いに連帯責任で年貢納入や犯罪取り締まりなどを行なうものです。

昔は「個性」のことを「クセ」と呼んでいました。「クセがある人」というのは個性が強い人のことです。クセのある人は、トラブルを起こし、まわりに悪い影響を与える可能性があります。だからクセ(個性)を抑えこもうとする集団心理が働いていたのです。「村八分」と呼ばれ、秩序を守らない人との交際を村全体が絶つという習慣が、最近まで日本に残っていたのはその一例です。

もちろん今の日本には連帯責任はありませんが、一度根付いた価値観は人々の心から簡単に消えてなくなるものではありません。個人や家庭や地域社会や学校や会社組織において、今も、連帯責任という強迫観念が無意識のうちに継承され、人々を抑圧しているのではないでしょうか。

ダメ、ダメ言い過ぎる日本人の母親

デパートで「さわっちゃダメ!」、「そっち行っちゃダメ!」と子どもの後を追いかけましている母親をよく見かけます。子どもからすれば、デパートには見たこともない魅力的なモノが溢れています。そんなモノを見ればさわってみたくなるのが人の常です。でも母親は「お店に迷惑をかけないように」、「まわりの人の迷惑にならないように」と、子どもの行動を抑制します。

何事にも日本人の親はまわりの目を気にしすぎるところがあります。子どもが泣けば近所迷惑になると必死であやし、子どもが走れば先回りして子どもをブロックする。子ども同士のおもちゃの取り合いになれば、親がおもちゃを取り上げて相手の子に渡してしまう。子どもは「まわりに迷惑をかけない」という大義名分の下、自発的な行動をコントロールされ続けるのです。

自己肯定感を育てるには「自分の意欲でやったことができた!」という成功体験が重要なのですが、世間がうるさい日本では「ちゃんとしつけなければいけない」というプレッシャーが大きく、その結果、子どもの行動をコントロールする場面の方が多くなってしまうのです。

子どもの自発的な行動を、親や周囲の大人や社会全体が、もう少しおおらかな目で見守ることが子どもたちの自己肯定感の向上につながるのではないでしょうか。人はだれでも「まわりに迷惑をかけて成長する」のです。ましてや世の中のルールも常識も知らない子どもですから、失敗したり、間違ったり、迷惑をかけるのがあたりまえなのです。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
あわせて読みたい

RANKING

  • 1

    「男性に守られるだけのヒロイン像」は絶滅?...韓ド…

  • 2

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 3

    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…

  • 4

    韓国のキム・ジヨンに共感する、日本の佐藤裕子たち..…

  • 5

    アメリカ日本食ブームの立役者、ロッキー青木の財産…

  • 1

    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…

  • 2

    タンポンに有害物質が含まれている...鉛やヒ素を研究…

  • 3

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 4

    「ショート丈」流行ファッションが腰痛の原因に...医…

  • 5

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ヨルダン皇太子一家の「グリーティングカード流出」…

  • 2

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 3

    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…

  • 4

    キャサリン妃の「結婚前からの大変身」が話題に...「…

  • 5

    韓国Z世代の人気ラッパー、イ・ヨンジが語った「Small …

MAGAZINE

LATEST ISSUE

特集:トランプ新政権ガイド

特集:トランプ新政権ガイド

2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?