最新記事

音楽

ゆるキャラで野心家。エド・シーランの超豪華な最新作がイマイチな理由

2019年08月07日(水)17時15分
カール・ウィルソン

皮肉なのは、これだけ多くの有名人が参加しているのに、アルバムのテーマは「パーティーやセレブ生活が嫌い」であること。ビーバーとのデュエット「アイ・ドント・ケア」が典型例だ(この曲は5月の先行リリース後、全英チャートで第1位を獲得し、全米チャートでも長らく2位にへばりついていた)。

ラッパーのトラビス・スコットを迎えた「アンチソーシャル」(非社交的という意味だ)は、実のところパーティーソングだが、ここでもシーランは、パーティーでは誰にも話し掛けられたくないと歌う。

彼がやや内向的らしいことは分かるが、完全には信用できない。シーランの最大の強みの1つは、どんなジャンルにも容易に溶け込めること。『No6』はその事実と、彼の交友範囲の広さを物語っている。とても内向的な人間の仕業とは思えない。『÷』の制作過程を記録した映画『ソングライター』で、シーランは、今がキャリアのピークだろうと語っている。とい うことは、『No6』は前作のウィニン グランであるだけでなく、本格的なスランプに入る前の時間稼ぎ用の作品なのかもしれない。

とはいえ、その作りは「ゆるい」とは程遠い。アーティストだけでなく、プロデューサーもマックス・マーティンやシェルバック、ベニー・ブランコなどヒットメーカーをそろえており、その顔触れを見る限り相当な気合が入っている。

なかでも輝きを放っているのは、シーランが得意とするラブバラードだ。アルバムで最も手堅い1曲と言える「ベスト・パ ート・オブ・ミー」は、米アーカンソー州出身の新進R&Bシンガーのイエバを迎えた美しいバラード。売れっ子DJでプロデューサーでもあるスクリレックスと組んだ「ウェイ・トゥ・ブレイク・マイ・ハート」も、現代的で洗練された仕上がりだ。

ゲストの特色が台無し?

ただ、こうした曲に共通するのは、ゲストアーティストのパフォーマンスが生きていること。聴いているほうとしてはシーラ ンが出しゃばり過ぎて、それを台無しにしないよう祈るばかりだ。アルバム最終曲「ブロウ」ではその悲劇が起きている。大 スターのブルーノ・マーズと、カントリーの実力派クリス・ステイプルトンを迎えた1曲だが、皮肉にもシーランが歌う「俺に 何かしただろう/何か変なことを」という歌詞が、そのままこの曲の仕上がりに当てはまる。

個人的に、ゲストのパフォーマンスで最も印象的なのは、「サウス・オブ・ザ・ボーダー」のカミラ・カベロとカーディ・Bだ。2人のパンチの効いた歌声が、ベタベタした歌詞の嫌な感じを吹き飛ばしてくれる。

人気ラッパーのストームジーが参加した「テイク・ミー・バ ック・トゥ・ロンドン」もいい。シーランはこの曲で、専門家に よる自分のラップの評価やツアー生活について文句を垂れるのだが、ストームジーのキレのいいラップがその不快感を忘れさ せてくれる。チャンス・ザ・ラッパーも、平凡な1曲「クロス・ミー」を、味わいのある曲に変身させている。

その一方で、新進ラッパーのヤング・サグが参加した「フィールズ」は、まだ28歳のシーランが繰り出すジジくさいサビのせいで、サグのユニークな声がもたらすパワーが台無しだ。デビューアルバムがグラミー賞を受賞したH.E.R.(ハー)との共作、そしてやはり大型新人のエラ・メイが参加した曲も、シーランの薄っぺらいパフォーマンスが邪魔で、彼女たちの才能が十分聴けない印象を受ける。

総合的に見て、豪華ゲストが結集した『No6』は、十分楽しめるアルバムだ。考え過ぎず、あくまでゆるく聴くならば。


2019081320issue_cover200.jpg
※8月13&20日号(8月6日発売)は、「パックンのお笑い国際情勢入門」特集。お笑い芸人の政治的発言が問題視される日本。なぜダメなのか、不健全じゃないのか。ハーバード大卒のお笑い芸人、パックンがお笑い文化をマジメに研究! 日本人が知らなかった政治の見方をお届けします。目からウロコ、鼻からミルクの「危険人物図鑑」や、在日外国人4人による「世界のお笑い研究」座談会も。どうぞお楽しみください。

[2019年8月 6日号掲載]

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
あわせて読みたい

RANKING

  • 1

    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…

  • 2

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 3

    メーガン妃とヘンリー王子の「単独行動」が波紋を呼ぶ

  • 4

    アジア系男性は「恋愛の序列の最下層」──リアルもオ…

  • 5

    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…

  • 1

    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…

  • 2

    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…

  • 3

    アジア系男性は「恋愛の序列の最下層」──リアルもオ…

  • 4

    キャサリン妃が「涙ぐむ姿」が話題に...今年初めて「…

  • 5

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 1

    「家族は見た目も、心も冷たい」と語る、ヘンリー王…

  • 2

    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…

  • 3

    カミラ王妃はなぜ、いきなり泣き出したのか?...「笑…

  • 4

    キャサリン妃が「大胆な質問」に爆笑する姿が話題に.…

  • 5

    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…

MAGAZINE

LATEST ISSUE

特集:超解説 トランプ2.0

特集:超解説 トランプ2.0

2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること