ゆるキャラで野心家。エド・シーランの超豪華な最新作がイマイチな理由
皮肉なのは、これだけ多くの有名人が参加しているのに、アルバムのテーマは「パーティーやセレブ生活が嫌い」であること。ビーバーとのデュエット「アイ・ドント・ケア」が典型例だ(この曲は5月の先行リリース後、全英チャートで第1位を獲得し、全米チャートでも長らく2位にへばりついていた)。
ラッパーのトラビス・スコットを迎えた「アンチソーシャル」(非社交的という意味だ)は、実のところパーティーソングだが、ここでもシーランは、パーティーでは誰にも話し掛けられたくないと歌う。
彼がやや内向的らしいことは分かるが、完全には信用できない。シーランの最大の強みの1つは、どんなジャンルにも容易に溶け込めること。『No6』はその事実と、彼の交友範囲の広さを物語っている。とても内向的な人間の仕業とは思えない。『÷』の制作過程を記録した映画『ソングライター』で、シーランは、今がキャリアのピークだろうと語っている。とい うことは、『No6』は前作のウィニン グランであるだけでなく、本格的なスランプに入る前の時間稼ぎ用の作品なのかもしれない。
とはいえ、その作りは「ゆるい」とは程遠い。アーティストだけでなく、プロデューサーもマックス・マーティンやシェルバック、ベニー・ブランコなどヒットメーカーをそろえており、その顔触れを見る限り相当な気合が入っている。
なかでも輝きを放っているのは、シーランが得意とするラブバラードだ。アルバムで最も手堅い1曲と言える「ベスト・パ ート・オブ・ミー」は、米アーカンソー州出身の新進R&Bシンガーのイエバを迎えた美しいバラード。売れっ子DJでプロデューサーでもあるスクリレックスと組んだ「ウェイ・トゥ・ブレイク・マイ・ハート」も、現代的で洗練された仕上がりだ。
ゲストの特色が台無し?
ただ、こうした曲に共通するのは、ゲストアーティストのパフォーマンスが生きていること。聴いているほうとしてはシーラ ンが出しゃばり過ぎて、それを台無しにしないよう祈るばかりだ。アルバム最終曲「ブロウ」ではその悲劇が起きている。大 スターのブルーノ・マーズと、カントリーの実力派クリス・ステイプルトンを迎えた1曲だが、皮肉にもシーランが歌う「俺に 何かしただろう/何か変なことを」という歌詞が、そのままこの曲の仕上がりに当てはまる。
個人的に、ゲストのパフォーマンスで最も印象的なのは、「サウス・オブ・ザ・ボーダー」のカミラ・カベロとカーディ・Bだ。2人のパンチの効いた歌声が、ベタベタした歌詞の嫌な感じを吹き飛ばしてくれる。
人気ラッパーのストームジーが参加した「テイク・ミー・バ ック・トゥ・ロンドン」もいい。シーランはこの曲で、専門家に よる自分のラップの評価やツアー生活について文句を垂れるのだが、ストームジーのキレのいいラップがその不快感を忘れさ せてくれる。チャンス・ザ・ラッパーも、平凡な1曲「クロス・ミー」を、味わいのある曲に変身させている。
その一方で、新進ラッパーのヤング・サグが参加した「フィールズ」は、まだ28歳のシーランが繰り出すジジくさいサビのせいで、サグのユニークな声がもたらすパワーが台無しだ。デビューアルバムがグラミー賞を受賞したH.E.R.(ハー)との共作、そしてやはり大型新人のエラ・メイが参加した曲も、シーランの薄っぺらいパフォーマンスが邪魔で、彼女たちの才能が十分聴けない印象を受ける。
総合的に見て、豪華ゲストが結集した『No6』は、十分楽しめるアルバムだ。考え過ぎず、あくまでゆるく聴くならば。
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[2019年8月 6日号掲載]