「女性が性的虐待やレイプされないスリラー小説を書きましょう」 スタンチ賞は言論統制?
Thrillers and Violence Against Women
小説が「レイプ神話」の拡散を助長している? FUNKY-DATA/ISTOCKPHOTO
<「女性の虐待なきスリラー小説」が対象のスタンチ賞に異論噴出。問題提起という目的は達成しているようだが......>
イギリスの作家・脚本家のブリジット・ローレスが「スタンチ賞」を発足させたのは昨年のこと。これは「女性が殴られたり、ストーキングされたり、性的に虐待されたり、レイプされたり、殺されたりしない」スリラー小説を対象にした文学賞だ。昨年の第1回受賞作には、ジョック・セロンの『オン・ザ・ジャバ・リッジ』が選ばれた。
この賞の計画が発表されると、女性作家を中心に、たちまち激しい議論が沸き起こった。「(女性に対する暴力を)描かないのは、それから目をそらすのと同じことだ」と、犯罪小説家 のバル・マクダーミドはツイッターで批判した。
心理サスペンス作家のソフィー・ハンナは、自分の作品を賞に応募しないよう出版社に求めるつもりだと表明。スタンチ賞が一部の犯罪だけを否定していることの問題点も指摘した。「男性が殺される作品にスタンチ賞が授与されたら、この賞が男性なら殺されていいと認めている、少なくとも否定していないと結論付けざるを得ない」と、ハンナはフェイスブックへの長文の投稿で訴えた。
女性への暴力を描いた作品が全て搾取的とは限らないことは、提唱者のローレスも認めている。「それでも、その種の作品を読みたくない人もいる。彼らが読みたいと思える作品を見つけられるようにする必要がある」
さまざまな批判はあるにせよ、スタンチ賞が当初の目的を達成したことは間違いないだろう。「フィクションの世界に女性への暴力があふれている現実に光を当てる」という目的だ。
賞の理念を支持する声もないわけではない。カナダの大御所女性作家マーガレット・アトウッドは、おそらくこの賞に対して好意的な考えを抱いているのだろう。彼女の作品の多くは応募資格を満たしていないように見えるが、ツイッターでローレスのラジオインタビューの記事を紹介。「スタンチ賞が欲しい? それなら、女性が性的に虐待されたり、レイプされたり、殺されたりしないスリラー小説を書きましょう」と呼び掛けた。
現実に存在しない理想郷
スタンチ賞は今年の応募作を受け付けるに当たり、女性への暴力を描いた作品に対して一層厳しい姿勢を打ち出した。とりわけ、主催者側がウェブサイトに掲載した以下のコメントが、スリラー作家たちを改めて戸惑わせている。