ネットでは全てが「最新」の音楽──ロックンロールは時空を超える
The Golden Age of Rock and Roll
ネットでは全てが「今」
オンラインで音楽を聴くことは、距離だけでなく時間の壁も壊す。ソファから立ち上がらずに、どんな曲でも聴いたり買ったりできるのだ(レコード業界も壊されているが、それはまた別の話だ)。
全てが「今」であり、古い音楽が廃盤になることも忘れられることもない。若い世代が古い音楽を好きになり、古い世代が新しい音楽を好きになる。
私も車を運転しながら、娘と一緒にスポティファイであらゆるジャンルの発見を楽しんでいる。デス・グリップス、エイフェックス・ツイン、キング・ギ ザード&ザ・リザード・ウィザード、ジャズのカマシ・ワシントンは、どれも現在19歳の娘リンダに教わった。
最近も新旧2つの出会いがあった。YouTubeで発見したレ・ブチェレッツと、You Tubeで再発見したイアン・ハンターだ。
レ・ブチェレッツは全ての要件を満たしている。カリスマ的なリードシンガー、素晴らしい詞と曲、力強いリズム、複数の楽器をこなすマルチプレーヤー。見た目も演奏も最高だ。
彼らは音楽業界の大物たちにも注目されている。最新アルバム『バイ/メンタル』は、元トーキング・ヘッズのジェリー・ハリソンがプロデュースに名を連ね、元デッド・ケネディーズのジェロ・ビアフラが演奏に参加している。
ザ・ホワイト・ストライプスのジャック・ホワイトなど大御所たちの前座を務め、年内にアメリカとヨーロッパで長期のツアーも予定している。最新アルバムの出来を考えれば、きっと大物になる予感がする。
ただし、ライブを見なければ、彼らの本当の良さは分からない。リードシンガーで曲も作るテリ・ジェンダー・ベンダーは躍動感にあふれている。ドラムのアレハンドラ・トロベルス・ルナ、ベースのマルフレッド・ロドリゲス・ロペス、全てのパートを担当するリコ・ロドリゲ ス・ロペス。スキルの高い演奏は息もぴったり合っている。
私がブルックリンで初めて彼らを見た夜は、90年代に人気を博した女性ロックバンド、L7の前座を務めていた。
前座の演奏は食われてしまいがちだ。音の調整はひどく、客は(既に集まっているとして も)無関心で、曲数も少ない。
ところがレ・ブチェレッツは全てを圧倒した。最初はフロアの半分ほどしか客はいなかったが、2曲目が始まる頃には、バーやグッズ販売のコーナーにいた人々が引き寄せられて満員に。歯切れのいいパワフルなサウンドが私たちの心をつかみ、30分間の激しい演奏はあっという間だった。
80歳の「大御所」も存在感
イアン・ハンターの公演はマンハッタンのシティ・ワイナリーで行われた。確か彼の80歳の誕生日を祝う名目で行われたもので、4公演(合わせて約1200席)のチケットは完売した。
ハンターは70年代のハードロ ック/グラムロックの人気バンド「モット・ザ・フープル」のフロントマンだった。解散の危機に瀕したとき、モットのファンだったデヴィッド・ボウイが「考え直してもらいたい」との思いを込めて自作の曲を提供したという逸話のあるバンドだ。その曲「すべての若き野郎ども」は大ヒットしたが、結局、モットは74年に解散した。
ハンターのソロ活動については長い間知らなかった。だが数年前にネット検索中にたまたま彼のウェブサイトに行き当たり、モットが再結成されてロンドンで公演を行うということを知った。もちろん、私はロンドンに飛んだ。調べてみたら、人気ドラマの主題歌だった「クリーブランド・ロックス」も、グレイト・ホワイトのヒット曲「ワンス・ビトゥン、トゥワイス・シャイ」も、バリー・マニロウの「人生は航海」も、ソロ転向後のハンターの作品だった。
ビリー・ジョエルら老齢にさしかかって曲作りをやめてしまったらしいミュージシャンとは 対照的に、ハンターは今も優れた音楽を作り続けている。その充実ぶりたるや、直近の3枚のアルバムだけでミュージシャン1人分の偉大なキャリアに相当するくらいだ。
ハンターは全く危なげない様子で90分間歌いきった。ソロア ルバムからはボウイにささげた「ダンディ」などを演奏し、「すべての若き野郎ども」などモット時代のヒットも1〜2曲、聴かせてくれた。観客は──今で も踊れる人はみんな──曲に合わせて踊った。
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[2019年7月 2日号掲載]