有用なガイドラインは存在しない──ばい菌だらけの医師スマホと院内感染の関係
Your Doctor’s Germy Smartphone
Wavebreakmedia-iStock
<病院内にも浸透したモバイル機器だが、衛生面での公的なルール作りは遅れている>
細菌やウイルスへの警戒心が人一倍強い人なら、携帯電話が不潔だということは百も承知だろう。トイレの個室やジムのベンチなど、直接もしくは持ち主の手を介して接触したありとあらゆるものから移った微細な汚物にまみれている。
医師や看護師といった医療従事者の携帯電話も同じこと。トイレの個室でツイッターをチェックしないとは言えないし、医療現場ではさらに多くの細菌が付着しかねない。医療従事者の携帯電話のほうがそうでない人のものより汚いという研究も複数あるほどだ。
仕事中に携帯電話やタブレットを使うと答えた医療従事者は全体の半数を超える。薬の処方量を計算する、手術前のチェックリストに目を通す、手技の解説動画を見直す、視覚検査に使うなど、医師にとって有用なツールであり、仕事には欠かせないと言う人もいる。
問題は、携帯電話やタブレットをきれいにしたことがない人が医療従事者の90%に及ぶことだ。医師や看護師の携帯電話は、傷口からの滲出液や血液、人体由来のいろいろな汚れにまみれているかもしれないのに。
そんな汚れた携帯電話を操作すれば、手や耳や鼻の穴に細菌やウイルスが付着する。また、スマートフォンやそのケースの上で病原体が何カ月も生き延びて、手術後の傷口や居心地のよいカテーテル、温かい人工呼吸器のチューブなど、医療従事者が触ったものに移る可能性もある。つまり院内感染だ。
アメリカでは1年間で入院患者の3%が院内感染の被害に遭っているとのデータがある。モバイル機器がその感染源になりかねないことも知られている。
医療現場における携帯電話の使用について、院内感染防止に向けた包括的ガイドラインを設けるべきだと指摘する研究はいくつもあるが、規制はいまだに追い付いていない。米疾病対策センター(CDC)の感染防止ガイドラインの最新版は 2007年のもので、モバイル機器については触れられてもいない。
紫外線の照射は有効だが
モバイル機器上で繁殖した微生物の全てが脅威になるわけではないが、集中治療室(ICU)で使われている携帯電話を 対象にした最近の研究では、採取した491のサンプルから危険な細菌が107種見つかった。この研究や類似の研究から、医療従事者の携帯電話で最もよく見られるのはエンテロバクター属の細菌やブドウ球菌だということが分かっている。
問題はやはり、有用なガイドラインが存在しないことにある。CDCは各医療機関が定める院内感染防止のための指針や手順の中で「さまざまな方法で利用される電子機器」にも対応する よう呼び掛けているだけ。具体的なルール作りは各医療機関に任されている。モバイル機器の使用が最も厳しく規制されるべき手術室についても、公的な規制はほぼないに等しい。