日本に埋もれていた衝撃の傑作「アール・ブリュット」が海外で高評価されているワケ
魲万里絵の作品 Photo: Satomi Iwasawa
<スイスの小さい美術館が、海外初となる日本のアール・ブリュットに焦点を当てた展覧会を開催してから10年...おもしろい、奇麗、ちょっと気持ち悪い、怖い、などどんな感情でもじっくりと味わってみよう>
アール・ブリュットは、正規の芸術教育を受けていない人が独特の方法を生み出して完成させたアート。アーティストたちは知的障害の人や精神障害の人が多く、中には刑務所の受刑者もいて、世界各地に住んでいる。日本のアール・ブリュットのアーティストは知的障害者が圧倒的に多い。時代の先端を行く絵画、グロテスクな陶芸、詳細な風景スケッチ、見事な色遣いの手芸など、様々な作風のアール・ブリュットのダイナミズムは見る人に衝撃を与える。この日本発アール・ブリュットが、海外で非常に高い評価を受け続けている。
ブームの火付け役は、スイスの小さい美術館
スイスのローザンヌといえばオリンピック博物館が有名だが、これと肩を並べて有名なのが、小ぢんまりとした美術館「アール・ブリュット・コレクション」だ。1976年に開館して、アール・ブリュットの原点とか総本山と呼ばれている。旅行サイトのトリップアドバイザーでも、ローザンヌの観光スポット約60か所の中で堂々の1位になっている。
Outside view Collection de l'Art Brut, Lausanne (Suisse). Photo : Marino Trotta,Archives de la Collection de l'Art Brut, Lausanne
この美術館で、2018 年 11 月30 日から『日本のアール・ブリュット もう一つの眼差し』と題した日本のアーティストの展覧会が、5か月間の予定でスタートした。本展は同館で10年前に開催した『ジャポン』展の続編で、日本のアール・ブリュットのアーティストの最新の様子を伝えようと企画された。
『ジャポン』展は、日本国外で初めて、日本のアール・ブリュットに焦点を当てた展覧会だった。12人の作品を見て、日本にも素晴らしいアール・ブリュットがあると多くの人たちが感嘆し、展示期間が延長されカタログなどもヒットして、他国でも次々に日本のアール・ブリュット展が開かれるきっかけとなった。これら海外での称賛によって、日本でも日本のアール・ブリュットに注目が集まるようになった。なおローザンヌと時を同じくして、パリでも日本のアール・ブリュットの2回目の展覧会『アール・ブリュット ジャポネⅡ』が開催中だ。
Inside view Collection de l'Art Brut. Photo: Caroline Smyrliadis,Archives de la Collection de l'Art Brut, Lausanne
Inside view Collection de l'Art Brut. Photo: Caroline Smyrliadis,Archives de la Collection de l'Art Brut, Lausanne
館長が日本人アーティストたちにしびれた
10年前の『ジャポン』展は、当時館長だったリュシエンヌ・ペリーさん(現在は退職し、アール・ブリュットの専門家として活躍)と日本発アール・ブリュットとの集大成だった。ペリーさんはローザンヌ大学でアール・ブリュットについて研究し、同市で美術史博士号を取得した初めての女性だったが、日本のアール・ブリュットのことをよく知らなかった。