愛犬はチェルノブイリ出身──原発事故で置き去りにされたペットの子孫を里親へ
Meet the Dogs of Chernobyl
チェルノブイリ立入禁止区域には多くの犬が生息する GLEB GARANICHーREUTERS
<ゴーストタウン化した原発事故の町に生きる約1000頭の犬を保護する活動が進んでいる>
ウクライナ北部の町チェルノブイリで、史上最悪レベルの原子力発電所事故が起きたのは32年前のこと。発電所はもちろん、半径30キロ圏内は「チェルノブイリ立入禁止区域」に指定され、住民は直ちに避難を余儀なくされた。ソ連時代の団地や遊園地は、今も無残な姿で打ち捨てられたままだ。
そんな文字どおりのゴーストタウンで、よく見掛けるのが野良犬たち。昼間は、雑草が生い茂ってアスファルトが見えなくなった道路に寝そべり、のんびりと日光浴をしている。日が暮れると、群れをなして走り回ったかと思えば、鼻を空に突き上げて遠ぼえを始める。
そんな野良犬たちにとって最大の栄養源は、人間の食べ物だ。チェルノブイリでは今も事故現場の処理作業が続いており、毎朝数百人の一時労働者が列車でやって来る。彼らは愛嬌のある野良犬たちを気に入り、自分の昼食を分けてやるのだ。
だが、野良犬の多くは4歳になる前に死んでしまう。「5歳の犬を見つけたら、おじいちゃんだ」と、チェルノブイリで働く環境放射線学者のルーカス・ヒクソンは言う。ただし犬たちの寿命が短いのは放射線のせいではなく、凍えるような寒さのせいだとヒクソンは言う。
事故とは無関係の被害者
たとえ厳しい冬を生き抜いても、オオカミやイノシシといった捕食者に襲われる可能性がある。そこでヒクソンは16年、クリーン・フューチャーズ基金(CFF)を立ち上げて、チェルノブイリの野良犬たちの保護活動を始めた。
チェルノブイリの犬 Blinoff-iStock
今年7月、ヒクソンはチェルノブイリで保護した子犬15匹を連れて、ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港に降り立った。そこで子犬たちは、アメリカの里親と感動的な対面を果たした。
「胸を打たれた」と、ヒクソンは振り返る。CFFでは、さらに15匹の子犬の里親も募集する計画だ。だが、誰でも里親になれるわけではない。子犬たちが愛に満ちた、安定した家庭に引き取られるよう、里親希望者たちは厳しい審査をくぐり抜けなければならない。