最新記事

映画

無視されたテニス女王の差別の苦悩 70年代スターアスリートが直面した同性愛に対する「時代の限界」

Tragic Love Affair

2018年08月20日(月)18時00分
エミリー・ガウデット


女性とLGBTの地位向上に対する長年の功績が認められ、アメリカの民間人として最高の栄誉である大統領自由勲章を09年に授与されたキングでさえ、そうなのだ。彼女が現役だった頃はまだ、同性愛と分かればスポーツ界から追放されかねない時代だった。残念ながら、この映画はそうした社会の閉塞感や影の部分を描き切れていない。

映画の中のキングは、あくまでも輝かしい戦績を誇る稀代のアスリート。性的指向を隠すために苦悩する女ではない。キングが「バトル・オブ・ザ・セクシーズ(男と女の頂上決戦)」と喧伝された73年の試合で元男子世界王者のボビー・リッグズを破り、女子テニスという競技の地位を飛躍的に向上させたのは事実だ。しかし私生活での彼女は、当時のアメリカ社会に存在したダークな規範に縛られて、常に後ろめたい思いを抱いて生きていた。その部分が『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』では欠落している。

レズビアンの恋を描くのに、彼女たちのセクシュアリティーを特異なものとして扱う必要はない。そうではなく、それを特異なものと思わせた社会の歴史的な責任を問うような描き方もできるはずだ。

もちろん、LGBTの人たちを支える法的な制度の確立は大切なことだ。しかしキングの生きざまを見れば分かるとおり、LGBTに対する差別はしばしば法的規制の網をかいくぐったところで起きる。

陰湿な同性愛嫌悪はいかにして醸成され、社会に浸透していくのか。そのプロセスに光を当てるような映画が作られるなら、それはきっと社会を変えていく力を持つ。私たちの犯してきた過ちをアートに昇華するような映画だ。

[2018年7月10日号掲載]

20250121issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年1月21日号(1月15日発売)は「トランプ新政権ガイド」特集。1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響を読む


※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい

RANKING

  • 1

    「男性に守られるだけのヒロイン像」は絶滅?...韓ド…

  • 2

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 3

    韓国のキム・ジヨンに共感する、日本の佐藤裕子たち..…

  • 4

    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…

  • 5

    韓国Z世代の人気ラッパー、イ・ヨンジが語った「Small …

  • 1

    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…

  • 2

    タンポンに有害物質が含まれている...鉛やヒ素を研究…

  • 3

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 4

    「ショート丈」流行ファッションが腰痛の原因に...医…

  • 5

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ヨルダン皇太子一家の「グリーティングカード流出」…

  • 2

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 3

    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…

  • 4

    キャサリン妃の「結婚前からの大変身」が話題に...「…

  • 5

    韓国Z世代の人気ラッパー、イ・ヨンジが語った「Small …

MAGAZINE

LATEST ISSUE

特集:トランプ新政権ガイド

特集:トランプ新政権ガイド

2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?